近年、日本の企業間取引をめぐる法規制は大きな転換期を迎えています。
2024年11月に施行された「フリーランス保護法」に続き、2026年(令和8年)1月1日からは、従来の下請法を抜本的に見直した「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」が施行されます。
いずれも「取引の公正化」を目的とする法律ですが、守ろうとしている相手・規制の考え方・企業に求められる対応には明確な違いがあります。
本記事では、フリーランス保護法と取適法の違いを整理し、発注側企業・中小事業者が実務上注意すべきポイントを行政書士の視点で解説します。
1.最大の違いは「誰を守る法律か」──対象範囲の整理
まず押さえておきたいのが、保護の対象となる事業者の違いです。
フリーランス保護法の対象
フリーランス保護法は、主に以下のような立場の事業者を対象としています。
- 従業員を雇用していない個人事業主
- 実質的に一人で事業を行う一人法人
いわば、組織に属さず、交渉力が弱くなりがちな「個人の働き手」を守るための法律です。
中小受託取引適正化法(取適法)の対象
一方、取適法の対象はより広く、中小事業者全般に及びます。
今回の法改正では、従来の「資本金基準」に加え、新たに「従業員数」による基準が導入されました。
例えば、製造委託などの取引では、従業員300人以下の事業者が受託側として保護対象になるケースがあります。
つまり、
- フリーランス保護法:弱い立場にある「個人」の保護
- 取適法:個人から中小企業まで含めた「事業者間取引全体の公正化」
を目的としている点が、大きな違いです。
2.「何のための法律か」が違う──理念と目的の違い
両法律は似て見えても、その根底にある考え方は異なります。
フリーランス保護法の理念
フリーランス保護法は、
- フリーランスが安心して働ける環境を整える
- 不利益な取扱いや不透明な契約から守る
ことを主眼とした法律です。 「働く個人の権利保護」という色合いが強いのが特徴です。
取適法が目指すもの
これに対して取適法は、単なる下請法の延長ではありません。
法律の理念として掲げられているのは、
- 元請・下請という上下関係の是正
- 対等なパートナーシップの構築
企業同士が一方的に支配・従属する関係ではなく、公正で持続可能な取引関係を築くことを目的としています。
3.2026年施行の取適法で追加される厳しい新ルール
取適法では、フリーランス保護法には見られない、あるいはより踏み込んだ規制が導入されます。
一方的な価格決定の禁止
受託者が原材料費や人件費の上昇などを理由に価格協議を求めたにもかかわらず、
- 協議自体を拒否する
- 十分な説明なく価格を据え置く
といった対応は、原則として禁止されます。
60日以内の全額現金払いの義務化
納品後60日以内に、全額を現金で受け取れる支払いが義務化されます。
これにより、
- 手形払い
- 割引料が発生するファクタリング
- 満額を受け取れない電子記録債権
などは、実質的に禁止されることになります。
特定運送委託取引も新たに対象に
荷主が運送事業者に直接委託する特定運送委託も、取適法の規制対象に追加されました。
物流・運送業界にとっても、極めて重要な法改正です。
4.企業が今から進めるべき実務対応
これら複数の法規制に対応するため、発注側企業には早期の実務対応が求められます。
① 取引先の再点検
取引先が
- フリーランス保護法の対象なのか
- 取適法の「中小受託事業者」に該当するのか
を正確に把握する必要があります。
② 契約書・支払条件の見直し
契約書については、
- 法律名・用語の更新
- 手形払い条項の削除
- 支払期日の明確化
など、最新の法令に適合させることが不可欠です。
③ 交渉プロセスの「見える化」
口頭発注や曖昧な合意を避け、
- 書面・メールによる発注
- 価格交渉の経緯を記録・保存
する体制づくりが重要になります。
まとめ|取引ルールの変化は「リスク」ではなく「信頼構築のチャンス」
企業にとっては負担増と感じる面もありますが、見方を変えれば、取引先との信頼関係を深め、長期的なパートナーシップを築く好機でもあります。
取適法対応や契約書の見直しに不安がある場合は、行政書士など専門家に早めに相談することをおすすめします。
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