行政書士の吉村です。
2025年に全面施行される改正建設業法(建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部改正)は、建設業界の“これまでの常識”を大きく変える内容を含んでいます。
その中でも特に重要なのが、「原価割れ契約の禁止が、受注者(建設業者)側にも義務付けられたこと」です。
これまでの建設業法では、「発注者→受注者」に対する不当な低価格強要を主に規制していました。しかし今回の改正では、建設業者自身が通常必要な原価を下回る総価で契約を結ぶことが、コンプライアンス違反として明確化されました。
本記事では、この改正の背景と、建設業者が今すぐ着手すべき「適正な原価計算」「見積ルール整備」のポイントを行政書士の立場から分かりやすく解説します。
1. なぜ受注者側の原価割れ契約が禁止されたのか
(1) 最大の目的は「労務費へのしわ寄せ防止」
建設業界では、就業者の減少・高齢化が深刻化しており、担い手確保は国全体の最重要課題となっています。近年、国が推進している「新4K」(給与がよい、休日が取れる、希望がもてる、カッコイイ)というコンセプトも、その流れの一つです。
しかし、請負代金が不当に低い場合、負担は最終的に労務費の圧迫として現れます。
適切な賃金を支払えなければ、技術者は離職し、人材不足に拍車がかかります。
今回の改正は、低廉な契約を建設業者自らが選択してしまうことによる、労働者への悪影響を防ぐ目的で導入されたものです。
(2) 従来の規制との違い
従来の建設業法でも、発注者が著しく低い労務費での見積変更を迫る行為は禁止されていました。しかし今回の改正では、
「通常必要な原価を下回る総価での契約」を建設業者自身にも禁止
という新たな規制が追加されました。
つまり、適正な価格で契約を結ぶのは発注者の責務であると同時に、受注者の責務でもあるという構造へ変わったのです。
2. 見落としがちな「通常必要な原価」とは
今回禁止されるのは、「通常必要な原価を下回る総価での契約」です。では、その原価には何が含まれるのでしょうか。
一般に建設工事の価格は、材料費・労務費・経費などで構成されますが、とくに以下の必要経費を確保できない契約は、原価割れと判断されるリスクが高まります。
| 費用項目 | 概要 |
|---|---|
| 労務費 | 技能労働者の賃金原資 |
| 法定福利費 | 健康保険料・厚生年金保険料・雇用保険料など事業主負担分 |
| 安全衛生経費 | 安全対策・保護具等の費用 |
| 建退共掛金 | 建設業退職金共済制度の掛金 |
とくに法定福利費や安全衛生経費が確保できない総価契約は、法違反と判断される可能性が高くなります。
ただし、「低廉な資材を保有している」など合理的理由がある場合は除外されます。
3. 建設業者が今すぐ取り組むべき具体的対策
改正法は2025年12月12日に完全施行されます。準備期間は限られています。
(1) 適正な原価計算体制を整備する
「なんとなくこの金額で受注しよう」は通用しません。
すべての工事で、以下を明確に把握する必要があります。
- 法定福利費
- 安全衛生経費
- 標準的な労務費
特に労務費については、中央建設業審議会が示す「標準労務費」が行政指導の参考指標になります。これを下回る単価設定は「不適正」と判断される可能性が高いため、必ず自社の見積と照らし合わせて確認しましょう。
(2) 社内規定・見積ルールの見直し
原価割れ契約の禁止は、受注者のコンプライアンスに直結します。
- 見積書作成の社内ルール化(労務費・法定福利費の算出方法)
- 工期設定の判断基準の明文化
- 内訳明示の徹底(元請・下請いずれでも必須)
とくに内訳明示は、適正な価格交渉の出発点です。
(3) 違反時は行政指導の対象に
受注者側が原価割れ契約を結んだ場合も、国土交通大臣等による指導・監督の対象となります。
短期的に見れば、「とにかく受注して現場を動かす」ことで売上を確保したくなるかもしれません。ですが、コンプライアンス違反は信用を失墜し、許可維持・事業継続に重大な影響を及ぼします。
まとめ|持続可能な経営こそ最大の防御策
今回の「原価割れ契約の禁止」は、建設業者が自らの価値を守り、働く人を守り、業界全体の持続性を高めるための重要な規制です。
適正原価の把握 → 適正価格での契約 → 適正な賃金の支払い
この流れを企業として確実に実施することが、将来にわたり信頼される建設業者として生き残る唯一の道です。
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