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  • (民法改正)法定養育費制度の創設を解説

    (民法改正)法定養育費制度の創設を解説

    2024年5月の民法改正により、「法定養育費制度」が新たに導入されました。

    この制度は、離婚時に養育費の取り決めがなくても、最低限の養育費を請求できる仕組みであり、子どもの貧困を防ぐ重要な改革です。

    本記事では、改正前後の違いとポイントをわかりやすく解説します。

    1. 改正前の制度とその課題

    従来の民法では、離婚の際に父母が協議して養育費の額を定めることが原則でした(民法766条)。

    協議が行われなかった場合、親権者が相手方に養育費を請求するのは容易ではありませんでした。

    ■主な課題

    • 養育費について協議せずに離婚するケースが多い
    • 請求するには家庭裁判所への申立てが必要
    • 結果的に養育費の不払いが多発

    このように、協議がないと養育費の請求が難しい制度だったのです。

    2. 改正後の制度:法定養育費制度の導入

    2024年の改正により、新たに民法766条の3が創設され、離婚時に養育費の取り決めがなくても、子どもを監護する親が相手方に対して法定の最低額を請求できるようになりました。

    ■改正のポイント

    • 養育費の取り決めがなくても自動的に請求が可能
    • 金額は法務省令による基準に基づき算出
    • 支払義務者は生活困難等を理由に減免を申立可能
    • 請求期限は協議成立・審判確定・子の成年のいずれか早い時点まで

    【具体例】

    養育費の協議が一切ないまま協議離婚した場合でも、離婚の翌月から法定の標準額(例:月3万円)を自動的に請求できます。

    3. 支払義務者への救済措置

    支払う側が生活保護を受けている場合や極度の低所得者である場合には、不公平にならないよう以下の救済措置が認められています。

    • 「支払能力がない」ことなどを証明すれば支払免除可
    • 家庭裁判所による柔軟な判断(免除・猶予など)

    4. 改正の背景と意義

    日本では離婚後に養育費を受け取っていない家庭が多く、子どもの貧困の大きな要因になっていました。

    今回の改正は、養育費を「当然の権利」と位置づけ、子どもの経済的安定を図るものです。

    なお、従来から民法881条において親の扶養義務は規定されており、今回の法改正はこれを具体化したものと言えます。

    5. 改正前と改正後の比較まとめ

    比較項目改正前改正後
    養育費の請求協議や裁判がないと困難協議なしでも自動で請求可
    支払額個別に協議・裁判で決定法務省令の標準額を適用
    支払免除特に規定なし生活困難等で免除申立可
    手続き負担親権者側の申立てが必要離婚時から当然に請求可

    6. まとめ

    今回の法改正により、養育費の不払い問題に対する大きな前進が実現しました。

    親権者は離婚後すぐに養育費を請求できるようになり、子どもの経済的な権利がより強く保護されます。

    離婚を考える方や、すでに離婚された方も、この制度の正しい理解が求められます。

    今後、法務省令により具体的な金額が発表された際には、改めて詳細な情報をお届けします。

    ご不明な点がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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  • 【解説】養育費に優先権が認められる民法改正をわかりやすく解説

    【解説】養育費に優先権が認められる民法改正をわかりやすく解説

    ~養育費債権がより強く、確実に回収できるように~

    令和6年(2024年)の民法改正により、養育費債権に「先取特権」が付与されました。これにより、債務名義がなくても差押えが可能となる、大きな実務上の変化が生じています。

    本記事では、改正前と改正後の違いを条文をベースに具体的に解説します。

    1.改正前の状況:養育費の回収は困難だった

    これまで、養育費の支払いが滞った場合でも、相手の財産を差し押さえるには、判決・調停・公正証書などの債務名義が必要でした。

    家庭裁判所での手続きを経なければ強制執行できず、その間に相手が財産を移すリスクも高く、回収は困難でした。

    また、「先取特権」は民法上存在していましたが、「子の監護の費用」として認められるケースは限定的で、実務上ほとんど使われていませんでした。

    2.改正内容:養育費債権に一般の先取特権を付与

    今回の改正で、民法第306条に新たに「子の監護の費用(養育費)」が明記されました。

    【改正後:民法第306条 抜粋】

    次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。

    • 共益の費用
    • 雇用関係
    • 子の監護の費用(新設)
    • 葬式の費用
    • 日用品の供給

    この改正により、養育費債権は総財産に対して優先的に差押えが可能となり、しかも債務名義が不要という大きな利点が生まれました。

    たとえば、協議離婚で養育費を取り決めたが公正証書を作っていない場合でも、先取特権により差押えが可能になります。

    3.より具体的なルール:民法第308条の2の新設

    今回の改正では、先取特権の対象となる養育費債権の根拠条文や差押え額の算定方法も明文化されました。

    【改正後:民法第308条の2 概要】

    以下の義務に基づく養育費に先取特権が認められます:

    • 第752条(夫婦の協力義務)
    • 第760条(婚姻費用の分担)
    • 第766条、第766条の3(離婚後の監護義務)
    • 第877条~第880条(扶養義務)

    また、差押え可能な金額は「子の監護に要する標準的な費用」とされ、法務省令で具体的な金額が定められることになります。

    このルールにより、過剰な差押えを防ぎつつ、必要最低限の養育費は迅速に回収可能となります。

    4.改正のポイントまとめ

    項目改正前改正後
    差押えに必要な手続き債務名義が必要債務名義なしでも差押え可能
    法的根拠明記なし民法306条に明記
    優先順位なし総財産に対して優先権あり
    計算方法個別判断法務省令で標準額を算定

    5.まとめ:養育費確保の大きな一歩

    今回の改正は、養育費の未払い問題に大きな解決策をもたらすものです。

    これまで泣き寝入りするしかなかった多くのケースで、債務名義がなくても差押えができることになり、養育費の支払い率向上が期待されています。

    養育費を受け取る側は、この「先取特権」が利用できることを知っておくことが非常に重要です。

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  • 離婚後の親権と監護の違いとは?改正民法824の3のポイント

    離婚後の親権と監護の違いとは?改正民法824の3のポイント

    民法の改正案が審議され、離婚後の子どもの養育に関するルールが大きく見直されようとしています。

    特に注目されているのが、「親権」と「監護」の違い、そして共同親権の導入です。

    この記事では、改正内容をわかりやすく解説し、皆さまの疑問にお答えします。

    1. 親権と監護の違いとは?

    親権

    • 子の養育全般に関する包括的な権利義務
    • 子の財産管理や代理権も含む
    • 改正案では離婚後も共同親権の選択が可能に

    監護

    • 子の生活・教育などの身上監護に関する具体的権限
    • 改正民法第824条の3により明確化
    • 居所の指定や教育方針などは監護者が単独で判断可能
    • 親権者でも監護者でなければ監護行為に干渉不可
    • 監護者には財産管理権・代理権はない

    2. 共同親権なのに監護者が一方に?

    共同親権を選んだ場合でも、監護者は一方に限定されることがあります。

    これは主に「子の利益」を最優先に考慮した結果で、以下のような事情が背景にあります。

    • 父母間の将来の紛争リスクを回避する必要がある場合
    • 進学先や居所などの決定での対立を予防
    • 国際結婚に限らず、日本国内の離婚でも同様の判断がされうる

    3. 監護者の指定は必須ではない理由

    改正案では、監護者の指定は必須ではありません

    離婚後も父母が責任を持って養育に関わるという基本理念に基づいており、家庭の事情に応じて柔軟な運用が求められています。

    4. 子の利益を最優先にした法改正

    今回の改正案の中心は「子の利益の確保」です。多様な家族形態や価値観に対応し、できる限り父母が協力して子育てを行うことが、子どもの最善の利益に資するとの考え方が示されています。

    5. 親権行使における特定の事項と日常の行為

    特定の事項(改正民法824条の2第3項)

    • 進学先など、意見対立の可能性がある重要事項
    • 協議不成立時は家庭裁判所が判断

    日常の行為(改正民法824条の2第2項)

    • 日常生活での監護行為
    • 短期の旅行などは通常、日常の行為に含まれる

    6. DV・虐待と親権の関係

    • 葛藤があるからといって直ちに単独親権になるわけではない
    • 裁判所は調停等を通じて両親の協力を促す
    • DVや虐待がなくても、状況により単独親権の判断はあり得る
    • 「おそれ」の判断は客観的証拠に限らず総合的に考慮

    7. 改正後の運用と裁判所の役割

    監護者と親権者の違いやDVの判断基準、特定の事項の定義など、具体的な運用に不透明さが残っているとの指摘があります。

    裁判所の判断に頼る場面も多くなると考えられ、今後の実務の展開が注目されます。

    まとめ:離婚後の親権・監護は慎重に判断を

    今回の民法改正案は、子の利益を第一に、多様な家族に対応できる制度設計を目指しています。

    共同親権や監護権の明確化は、離婚後も親が連携して子の養育に関わる道を開くものです。

    離婚後の親権や監護でお悩みの方は、ご相談ください。個別の事情に応じたアドバイスが重要です。

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  • 民法第766条改正のポイントをわかりやすく解説

    2024年に提出された民法改正案により、親権制度の見直しが注目されています。本記事では、民法第766条の解釈や運用に大きく影響するこの改正の要点を、改正前と改正後に分けて整理し、わかりやすくご紹介します。

    改正前の状況:民法第766条とは

    民法第766条は、父母が離婚する際の「子の監護に関する事項」について定めた条文です。現行法では、「子の利益を最も優先して考慮すること」が明記され、親権や養育のあり方を判断する際の基本方針とされています。

    しかし実務上では、次のような課題が指摘されてきました。

    • 親子の交流が断たれたり、制限される事例が多く、「子の利益」の解釈が一貫していない
    • 離婚後は「単独親権」が原則であり、父母いずれか一方が親権者となる。
    • 離婚時に取り決めがされないケースが多く、養育費の合意率は46.7%、面会交流は30.3%にとどまっている。

    改正案のポイント:共同親権と「子の利益」の明確化

    今回の民法改正案は、第766条の文言自体を大きく書き換えるのではなく、親権制度全体を見直すことにより、その運用や理念の実効性を高めることを目的としています。主な変更点は以下の通りです。

    1. 離婚後の共同親権の導入

    • これまでの単独親権に加えて、離婚後も父母が共に親権を持つ「共同親権」が選択可能になります。
    • 父母が協議して共同親権または単独親権を選び、合意に至らない場合は家庭裁判所が判断します。
    • DVや虐待がある場合は、引き続き単独親権が原則とされます。

    2. 「子の利益」の定義の明確化

    • 法務大臣は、「子の利益」について「人格が尊重され、年齢や発達が図られること」と説明。
    • 別居や離婚後でも、父母双方が責任をもって子の養育に関わることが重要とされます。
    • 親の養育責任を明確にする新たな規定も追加される予定です。

    3. 養育計画(監護の分掌)の明確化

    • 父母が離婚時に養育計画を協議して作成することが可能であると明記。
    • 現状の低い合意率を改善し、「子の利益」に資する制度運用を目指します。

    4. 親権と監護権の分離の柔軟化

    • 共同親権のもとでも、監護者(子の生活面を実際に担当する者)を個別に定められます。
    • 監護者の指定は、個別の家庭事情を考慮し、「子の利益」を最優先に決定されます。

    5. 養育時間の分担に関するガイドラインの整備

    • 養育時間の公平な分担のため、児童心理学の専門知見に基づくガイドライン作成が検討されています。
    • 養育スケジュールの明確化により、離婚後の安定した親子関係が期待されます。

    今後の見通しと課題

    この改正案は、子どもの権利と福祉をより強く保護するための重要な一歩です。一方で、共同親権の導入に対してはさまざまな立場からの意見があり、今後の議論と制度設計が注目されています。

    法制度の変更に際しては、法律の専門家による冷静な分析と実務的なサポートが必要不可欠です。当事務所では、最新の法改正情報を正確に把握し、市民の立場からわかりやすく解説を行ってまいります。

  • 親権の行使方法|改正民法第824条の2を解説

    親権の行使方法|改正民法第824条の2を解説

    2024年(令和6年)5月に民法が改正され、新たに民法第824条の2が追加されました。

    本条文は、親権の行使方法を明確にするもので、共同親権に関連して今後重要な役割を果たします。

    民法第824条の2とは

    民法第824条の2は、「親権の行使方法等」について定める条文です。

    公布日から2年以内に施行される予定であり、親権の共同行使と単独行使の範囲について具体的に記されています。

    条文のポイント

    • 親権は原則として父母が共同して行う
    • 以下の場合には、一方の親が単独で行使できる。
      • 一方のみが親権者である場合
      • 他方が親権を行使できない場合(喪失・行方不明等)
      • 子の利益のため急迫の事情がある場合
    • 日常の監護・教育行為については単独で行使可能
    • 意見が合わない場合、家庭裁判所が一方の単独行使を認めることができる

    親権の共同行使と単独行使の違い

    共同行使の原則

    父母がともに親権者である場合、親権は共同で行使することが原則です。

    進学、転居、手術の同意など、重要な事項は協議が必要です。

    単独での親権行使が認められる場面

    • 離婚後、一方の親のみが親権者とされた場合
    • 他方の親が長期不在、連絡不能などの場合
    • 緊急医療、入学手続など急迫の事情がある場合

    「日常の行為」とは

    例えば以下のような行為は、単独での親権行使が可能です。

    • 習い事の申込み・解約
    • 高校生のアルバイト許可
    • 定期予防接種や風邪の治療

    一方、以下のような事項は「日常の行為」に含まれないとされています。

    • 私立小・中学校への入学
    • 高校進学・中退
    • 海外留学や転居
    • 重大な医療処置(手術等)

    協議が整わない場合と家庭裁判所の関与

    重要な事項で父母の意見が分かれ、協議が調わない場合には、家庭裁判所が判断を行います。

    子の利益を最優先に、一方の単独行使を認める決定がされることがあります。

    今後の動向と周知活動

    「急迫の事情」や「日常の行為」の定義はやや曖昧との指摘もあり、今後は法務省によって、インターネットやパンフレット等を通じた周知活動が行われる予定です。

    まとめ

    民法第824条の2は、親権の具体的な行使方法を定める新しいルールです。

    特に共同親権のもとで、どのような場合に単独で判断できるかが明文化された点は、実務においても大きな意義があります。

    行政手続や家庭裁判所への申し立てなど、状況に応じた適切な対応が求められます。

    当事務所では、法改正に関するご相談にも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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  • 民法第819条の改正内容とその解説

    民法第819条の改正内容とその解説

    改正の趣旨

    これまで日本の民法では、離婚後の父母のいずれか一方を「単独親権者」と定める制度が採られていました。しかし、国際的には離婚後も「共同親権」を認める法制度が一般的であり、日本の制度との乖離が指摘されてきました。
    今回の改正は、「子の利益の最大化」を主眼に、離婚後も父母が共同して親権を行使できる制度へと転換する重要な一歩です。

    第819条の条文比較と解説

    【第819条第1項】(協議離婚時の親権者指定)

    改正前:
    父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
    改正後:
    父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
    解説:
    これまでは、協議離婚時に必ずどちらか一方のみを親権者としなければならず、父母双方を親権者とすることは認められていませんでした。改正により、父母の合意があれば、離婚後も共同親権を選択できるようになりました。これは、父母双方が継続して子の養育に関わることを可能にする重要な転換点です。

    【第819条第2項】(裁判離婚時の親権者指定)

    改正後:
    裁判所は、父母の双方または一方を親権者と定めることができるようになりました。
    解説:
    裁判離婚でも、裁判所が共同親権を認める判断が可能になりました。ただし、共同親権が必ず認められるわけではなく、「子の利益」が最優先され、状況に応じて単独親権が選択されることも当然にあります。

    【第819条第3項】(出生前離婚の場合の親権)

    改正後:
    出生後、父母の協議により共同親権も選択可能になりました。
    解説:
    従来は、出生後に父を単独親権者とすることのみが可能でしたが、改正により出生後に共同親権も選択できるようになりました。離婚時点での母の親権を原則としつつ、父母双方が望む場合に、出生後の共同親権を認める柔軟性が導入されました。

    【第819条第4項】(認知した子の親権)

    改正後:
    父母の合意により、共同親権が可能になりました。
    解説:
    改正前は、母の単独親権が原則であり、例外的に父が単独親権者になることのみ認められていました。改正により、父母が合意すれば、共同親権も可能となります。非婚の父母でも、父母双方が育児に積極的に関わる道が広がったことを意味します。

    【第819条第5項】(協議が不調の場合)

    解説:
    協議ができない場合、裁判所が判断する制度自体は変わりませんが、単独親権か共同親権かを家庭裁判所が総合的に判断する場面が生まれました。

    【第819条第6項】(親権者変更)

    改正後:
    「子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。」
    解説:
    改正により、親権者変更の申立てが「子本人」からも可能になりました。これは子の権利を尊重する現代的な改正であり、子ども自身が家庭環境に対して異議を申し立てられる重要な制度的保障です。

    【第819条第7項(新設)】(単独親権を選択すべき場合)

    条文の趣旨:

    家庭裁判所は、共同親権か単独親権かを判断する際に「子の利益」を最優先に考慮しなければならず、以下のような場合には必ず単独親権としなければならないと定められました。

    • ① 父母のいずれかが子の心身に害悪を及ぼすおそれがあるとき。
    • ② DV等が存在する場合、または親権を共同で行うことが困難と認められる事情がある場合。

    解説:
    特に、ここで重要なのは「DV等」の定義が身体的暴力に限られず、精神的な虐待や経済的支配も含む広範な概念である点です。裁判所は、単に両親の意思ではなく、子の安全性と福祉を重視し、共同親権が子の利益を害する場合は、必ず単独親権とする義務を負います。

    【第819条第8項(新設)】(親権者変更時の協議経過の考慮)

    条文の趣旨:

    親権者変更時、家庭裁判所は「当初の協議の経過」をも重視しなければならないとしました。具体的には、

    • DV等が協議時に存在したか
    • 調停やADR(裁判外紛争解決手続)が利用されたか
    • 公正証書の作成が行われたか

    これらを考慮し、当初の協議が適切に行われたかどうかを丁寧に判断します。

    解説:
    親権者を後から変更する場合に、形式的に「子の利益が害されているか」だけを見ず、過去の協議が公正であったかを検証する仕組みです。これにより、不適切な合意、強要、暴力に基づく協議が将来問題となった場合でも、裁判所はその協議の妥当性を再評価することが可能になります。

    まとめ

    今回の改正で、日本の親権制度は「単独親権が原則」から、「子の利益を最優先に、共同親権も選択可能な制度」へと進化しました。

    • 離婚後も共同親権が可能に
    • DV等の安全配慮に基づく単独親権の明文化
    • 子ども自身が親権者変更を求められる制度の導入

    今後は、協議内容の記録やDVの有無の確認が一層重要になります。

    行政書士にご相談ください

    離婚後の親権に関するご相談、公正証書作成のご支援など、行政書士がしっかりサポートいたします。
    民法改正を正しく理解し、お子様の未来を守るために、ぜひご相談ください。

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  • 【民法改正を解説】離婚後の親権制度が大きく変わる!共同親権の導入とそのポイント

    【民法改正を解説】離婚後の親権制度が大きく変わる!共同親権の導入とそのポイント

    2024年の民法改正により、離婚後の親権に関するルールが大きく見直されました。

    これまで日本では、離婚後の親権は「単独親権」が原則であり、父母のどちらか一方が親権者となっていました。

    しかし今回の改正により、離婚後も共同親権を選択できる仕組みが導入されました。


    このブログでは、改正前後の違いと、具体的な運用イメージ、注意点について、わかりやすく解説します。


    1.改正前のルール(単独親権が原則)

    改正前は、協議離婚の場合も裁判離婚の場合も、必ず父母のどちらか一方を親権者と定めなければならないとされていました。

    【民法第819条 改正前】

    • 第1項:協議離婚では「父母の一方を親権者と定めなければならない」
    • 第2項:裁判離婚でも「父母の一方を親権者と定める」
    • 第3項、第4項:子が出生前に離婚した場合や、父が認知した場合でも、父母の協議で「父を親権者とする」ことはできたが、「共同親権」は認められていなかった。

    つまり、改正前は離婚後に父母が共同して子の親権を持つことはできず、親権者となれなかった親は「法律上の親権行使権」を失い、子どもの進学や医療に関する重要な決定にも関与できない状況でした。


    2.改正後のルール(共同親権の導入)

    改正により、離婚後も父母双方が親権者となる「共同親権」を選べるようになりました。

    【民法第819条 改正後のポイント】

    • 第1項:協議離婚の場合、「父母双方または一方を親権者と定める」ことが可能に。
    • 第2項:裁判離婚の場合も、「父母双方または一方を親権者と定める」ことができる。
    • 第3項、第4項:出生前離婚や認知の場合も、共同親権の選択肢が明確に加えられた。
    • 第6項:これまで「子の親族」しか親権者変更を申し立てできなかったところ、子本人も請求可能に。
    • 第7項・第8項【新設】:共同親権の可否を判断する基準が明文化された。

    3.裁判所の判断基準(重要ポイント)

    今回の改正で、父母の双方を親権者とする場合でも、必ず「子の利益」が最優先されます。

    裁判所は以下の事情を総合的に考慮し、共同親権が子の利益を害する場合は必ず単独親権とします。

    • 親の一方が子を虐待するおそれがある場合
    • 一方が他方に対してDV(身体的・精神的暴力を含む)がある場合
    • 協議が不成立になった経緯から、父母の共同意思決定が現実的に難しい場合

    共同親権は「子にとって最善」であることが前提であり、リスクがある場合は強制的に単独親権となります。


    4.親権者変更時の新ルール

    親権者を後から変更する場合、以下の事情が特に考慮されます。

    • 親権を決めた際の協議の経過
    • DVの有無
    • 家事調停や裁判外紛争解決手続(ADR)の利用の有無
    • 公正証書の作成有無

    これにより、不適切な合意や子の利益に反する場合は、家庭裁判所が親権者を変更することも可能になりました。


    5.実務上のイメージと注意点

    実務でよくあるケース

    • 協議離婚時に共同親権を選択したが、後に父母の対立が激化し、子の生活に悪影響が出た場合 → 家庭裁判所が単独親権に変更可能
    • DV被害を受けていた親が協議時に十分な主張ができなかった場合 → 協議経緯を家庭裁判所が審査し、不適切なら変更可能

    注意点

    • 共同親権でも子の進学・医療・居住地など重要事項の協議は必須。意見がまとまらない場合はトラブルのもと。
    • 離婚協議時に「具体的なルール」や「紛争時の手続き」も定めておくことが重要。
    • 共同親権の導入により「子の利益を守る」視点が一層重視されるため、家庭環境や親の関係性を慎重に検討する必要がある。

    6.まとめ

    今回の改正で、離婚後も父母が共同で子どもを育てる仕組みが法的に整いました。

    しかし共同親権は「子の利益」が守られることが大前提であり、単に「父母の希望」だけでは判断されません。

    父母が協力できるか、子どもにとってどちらが幸せかが問われる時代です。


    親権の選択は家庭事情により慎重な判断が必要です。

    迷われている方は早めに専門家に相談することをおすすめします。

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  • 親の責務と親権に関する民法改正

    親の責務と親権に関する民法改正

    ~2024年改正の重要ポイントをわかりやすく解説~

    2024年の民法改正により、「親の責務」に関する新しい規定(民法第817条の12)が新設されました。あわせて、「親権」の基本的な考え方(民法第818条)も見直され、子どもの利益をより重視した法律の内容となりました。

    この改正は、これまで十分に明文化されていなかった「父母の責任」や「親権の目的」をはっきりと示し、親子関係に関するルールをより子どもの立場に立って整理したものです。

    ここでは、改正前と改正後の違いをわかりやすくご紹介します。

    1.改正前の民法の問題点

    (1)親の責務に関する規定がなかった

    改正前の民法では、親が子どもをどのように育てるべきか、どのように接するべきかが法律の条文に明記されていませんでした。

    親権は「親の権利」という側面が強く、親の義務や責任については、判例(裁判例)や社会の一般的な考え方に頼るほかありませんでした。

    特に、父母が離婚や別居した場合でも「お互いに協力する義務がある」とは法律で明示されておらず、共同で子どもを育てることの重要性が十分に認識されにくい状況でした。

    (2)親権の目的がはっきりしていなかった

    改正前の民法第818条には「親権者」に関する規定はありましたが、「親権は誰のために行使するものか」という根本的な目的が明確に示されていませんでした。

    そのため、実務では「親権は親のための権利なのか」「子どものためなのか」といった議論があり、親権の行使が親の都合で進められてしまうリスクが指摘されていました。

    2.改正後のポイント

    (1)民法第817条の12(新設)【親の責務】

    改正により、父母の基本的な責任が条文に明文化されました。

    主な内容

    • 父母は、結婚しているかどうかに関わらず、子どもの人格を尊重し、年齢や成長に応じて養育しなければならない。
    • 父母は、子どもが自分たちと同じような生活水準を維持できるように扶養しなければならない。
    • 父母は、別居や離婚をしていても、子どもの利益のために、お互いの人格を尊重し、協力しなければならない。

    意義

    この規定により、離婚後であっても父母が「子どもを共に育てる責任がある」ことが法律で明確に示されました。

    従来は「親の権利」が重視されていましたが、これからは「親の責務」が法律上の中心になる、大きな価値観の転換と言えます。

    (2)民法第818条(改正)【親権の目的の明確化】

    改正により、親権は「子どもの利益のために行使しなければならない」と条文で明記されました。

    改正前

    親権者が誰かを定める条文はありましたが、親権の目的についての明記はありませんでした。

    改正後

    「親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない」と明確に書かれました。

    意義

    これにより、親権者が自分の都合で子どもに不利益を与える行為は、法律上、より強く制限されることになります。

    たとえば、親権者が他方の親との面会を一方的に妨害する場合、「それは子どもの利益に反する」として、法的に是正を求めることができる場面が増えることが予想されます。

    3.実務への影響

    • 離婚後も父母が協力して子どもを養育するための基準が明確になった
    • 面会交流を巡る争いで「子どもの利益」を優先する判断がしやすくなった
    • 親権者が自己中心的に権利を濫用することを防ぐ効果が期待される

    これまでは、「親が拒否すれば子どもに会わせなくても仕方がない」といった考え方も一部にありましたが、改正後は「親は協力しなければならない」という法的義務が明記され、実務でも親同士の協力がより重視されるようになると考えられます。

    4.まとめ

    項目改正前改正後
    親の責務明文化なし養育義務・協力義務を明記
    親権の目的明文化なし子の利益のために行使

    今回の改正は、「親権は親の権利ではなく、子どものための義務である」という考え方を法律でしっかりと確認したものです。

    これからの親子関係は、父母が互いに協力し、子どもの最善の利益を第一に考えた養育が求められる時代へと進んでいくことが期待されています。

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  • 【令和6年民法改正】家族法の重要ポイントをわかりやすく解説

    【令和6年民法改正】家族法の重要ポイントをわかりやすく解説

    令和6年5月に成立した「民法等の一部を改正する法律」は、親権、離婚、養育費、親子交流といった家族法に大きな影響を与える重要な改正です。

    このページでは、民法改正のポイントを5つに分けてわかりやすく解説します。

    なお、次回以降は各ポイントをさらに詳しくご説明します。

    1. 親の責務が法律で明確に規定されました

    改正民法では、父母が子に対して負う責任が明確に定められました。

    父母は、婚姻の有無にかかわらず、子どもの心身の健やかな成長を図るため、その人格を尊重し、協力して養育することが義務付けられています。

    この改正は、親子関係において子どもの権利を重視し、親同士が協力する重要性を法的に裏付けたものです。

    2. 親権制度の見直しと共同親権の導入

    これまで離婚後は、一方の親のみが親権を持つことが原則でしたが、今回の改正で父母双方が親権を持つ「共同親権」が認められました。

    単独親権となる場合

    • 父母間で協議が整わない場合
    • 虐待や家庭内暴力があり、子の利益が害されるおそれがある場合

    親権変更の際には、協議の経過も重視され、不適切な合意を防ぐ制度も整えられました。

    3. 養育費支払い確保のための法整備

    養育費の不払いを防ぐため、今回の改正で養育費債権に優先的な差押権(先取特権)が認められ、債務名義がなくても差押えが可能になりました。

    また、父母間の協議が整わなくても養育費を請求できる新たな法制度も創設され、養育費の履行確保が実質的に強化されています。

    4. 安全・安心な親子交流の支援

    離婚後も子どもと別居している親が交流できるよう、次の仕組みが整えられました。

    親子交流の新たなルール

    • 調停・審判の前に試験的に親子交流を行うことが可能に
    • 婚姻中の別居時にも親子交流ルールを適用

    これにより、子どもが安心して親と交流を続けることができる環境が法的に支援されました。

    5. その他の家族法関連の改正点

    今回の改正では、次のような家族法全体に関わる見直しも行われました。

    • 養子縁組後の親権者に関する規定を明確化
    • 離婚時の財産分与請求期間が2年から5年に延長
    • 財産分与の考慮要素の具体化
    • 祖父母など親族と子どもの交流に関する新しい規定を整備

    これらの改正は、現代の家族の多様な形に対応した柔軟な法制度を目指しています。

    【まとめ】令和6年民法改正は子ども中心の法改正

    今回の民法改正は、親子関係のルールを現代社会に合わせて大きく見直したものです。

    親の責務の明確化、共同親権の導入、養育費履行の強化、親子交流支援など、すべてにおいて子どもの利益を第一に考えた内容となっています。

    次回のブログでは、「親の責務等に関する規律」について、さらに詳しく解説します。ぜひご覧ください。

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  • 包括遺贈と特定遺贈の違い|判例で解説

    包括遺贈と特定遺贈の違い|判例で解説

    東京地裁平成10年6月26日判決の概要

    この事件では、遺言者が亡くなる前に遺言を残し、妹には特定の不動産を、法人Bにはそれ以外の不動産や書籍・手紙などを贈与する旨を記していました。

    しかし、税務署は法人Bへの遺贈を包括遺贈と判断し、所得税約1億2,000万円の支払い義務を課しました。

    これに対し、法人Bは「特定遺贈である」と主張し裁判を起こしました。

    用語の解説|包括遺贈と特定遺贈

    遺贈とは?

    遺言によって財産を特定の人に与えることを「遺贈」といいます。

    包括遺贈とは?

    民法964条に定められており、「財産の全部」や「〇分の〇」といった割合で遺贈する形式です。相続人に近い立場となり、借金や税金などの義務も引き継ぎます。

    特定遺贈とは?

    「この不動産」や「この預金」など、特定の財産を指定して渡す遺贈です。原則として義務(負債や税金)は引き継ぎません。

    裁判所の判断|包括遺贈と認定された理由

    裁判所は、法人Bへの遺贈を包括遺贈と判断しました。

    遺言内容が「妹に特定の不動産、それ以外すべてを法人Bに渡す」としていたため、包括的な贈与と見なされました。

    学習館の書籍や手紙なども含まれており、遺言者の強い意志が表れていたことも判断材料とされました。

    重要な判例ポイント3つ

    ① 割合が書かれていなくても包括遺贈にあたる

    この判決では、「割合」が書かれていなくても、遺贈の内容が包括的であれば包括遺贈と認められるとしています。

    ② 「すべてを渡す」という文言に注意

    特定の財産を除いた「その他すべて」を渡す表現は、包括遺贈と解釈される可能性があります。特に、動産・不動産を広く含む場合は要注意です。

    ③ 包括遺贈には税金などの義務も伴う

    包括遺贈と判断されると、受遺者(ここでは法人B)は遺言者の所得税などの支払い義務も引き継ぐことになります。

    まとめ|包括遺贈と特定遺贈の違いと実務への影響

    観点内容
    遺贈の種類包括遺贈と特定遺贈に分かれる
    包括遺贈財産全体や割合で承継(義務含む)
    特定遺贈特定の財産のみ(原則、義務なし)
    本件の争点法人Bへの遺贈がどちらか
    判決の考え方割合の記載がなくても包括的なら包括遺贈
    実務上の影響表現次第で大きく税負担が変わる

    おわりに|実務上も重要な判例

    本判例は、遺言の表現方法によって受遺者の負担が大きく変わるという、実務上非常に重要な示唆を含んでいます。包括遺贈と特定遺贈の区別を学ぶうえで、非常に有用な事例といえるでしょう。

    東京地判平成10年6月26日(判時1668号49頁)