カテゴリー: 民法改正

  • 親の責務と親権に関する民法改正

    親の責務と親権に関する民法改正

    ~2024年改正の重要ポイントをわかりやすく解説~

    2024年の民法改正により、「親の責務」に関する新しい規定(民法第817条の12)が新設されました。あわせて、「親権」の基本的な考え方(民法第818条)も見直され、子どもの利益をより重視した法律の内容となりました。

    この改正は、これまで十分に明文化されていなかった「父母の責任」や「親権の目的」をはっきりと示し、親子関係に関するルールをより子どもの立場に立って整理したものです。

    ここでは、改正前と改正後の違いをわかりやすくご紹介します。

    1.改正前の民法の問題点

    (1)親の責務に関する規定がなかった

    改正前の民法では、親が子どもをどのように育てるべきか、どのように接するべきかが法律の条文に明記されていませんでした。

    親権は「親の権利」という側面が強く、親の義務や責任については、判例(裁判例)や社会の一般的な考え方に頼るほかありませんでした。

    特に、父母が離婚や別居した場合でも「お互いに協力する義務がある」とは法律で明示されておらず、共同で子どもを育てることの重要性が十分に認識されにくい状況でした。

    (2)親権の目的がはっきりしていなかった

    改正前の民法第818条には「親権者」に関する規定はありましたが、「親権は誰のために行使するものか」という根本的な目的が明確に示されていませんでした。

    そのため、実務では「親権は親のための権利なのか」「子どものためなのか」といった議論があり、親権の行使が親の都合で進められてしまうリスクが指摘されていました。

    2.改正後のポイント

    (1)民法第817条の12(新設)【親の責務】

    改正により、父母の基本的な責任が条文に明文化されました。

    主な内容

    • 父母は、結婚しているかどうかに関わらず、子どもの人格を尊重し、年齢や成長に応じて養育しなければならない。
    • 父母は、子どもが自分たちと同じような生活水準を維持できるように扶養しなければならない。
    • 父母は、別居や離婚をしていても、子どもの利益のために、お互いの人格を尊重し、協力しなければならない。

    意義

    この規定により、離婚後であっても父母が「子どもを共に育てる責任がある」ことが法律で明確に示されました。

    従来は「親の権利」が重視されていましたが、これからは「親の責務」が法律上の中心になる、大きな価値観の転換と言えます。

    (2)民法第818条(改正)【親権の目的の明確化】

    改正により、親権は「子どもの利益のために行使しなければならない」と条文で明記されました。

    改正前

    親権者が誰かを定める条文はありましたが、親権の目的についての明記はありませんでした。

    改正後

    「親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない」と明確に書かれました。

    意義

    これにより、親権者が自分の都合で子どもに不利益を与える行為は、法律上、より強く制限されることになります。

    たとえば、親権者が他方の親との面会を一方的に妨害する場合、「それは子どもの利益に反する」として、法的に是正を求めることができる場面が増えることが予想されます。

    3.実務への影響

    • 離婚後も父母が協力して子どもを養育するための基準が明確になった
    • 面会交流を巡る争いで「子どもの利益」を優先する判断がしやすくなった
    • 親権者が自己中心的に権利を濫用することを防ぐ効果が期待される

    これまでは、「親が拒否すれば子どもに会わせなくても仕方がない」といった考え方も一部にありましたが、改正後は「親は協力しなければならない」という法的義務が明記され、実務でも親同士の協力がより重視されるようになると考えられます。

    4.まとめ

    項目改正前改正後
    親の責務明文化なし養育義務・協力義務を明記
    親権の目的明文化なし子の利益のために行使

    今回の改正は、「親権は親の権利ではなく、子どものための義務である」という考え方を法律でしっかりと確認したものです。

    これからの親子関係は、父母が互いに協力し、子どもの最善の利益を第一に考えた養育が求められる時代へと進んでいくことが期待されています。

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  • 【令和6年民法改正】家族法の重要ポイントをわかりやすく解説

    【令和6年民法改正】家族法の重要ポイントをわかりやすく解説

    令和6年5月に成立した「民法等の一部を改正する法律」は、親権、離婚、養育費、親子交流といった家族法に大きな影響を与える重要な改正です。

    このページでは、民法改正のポイントを5つに分けてわかりやすく解説します。

    なお、次回以降は各ポイントをさらに詳しくご説明します。

    1. 親の責務が法律で明確に規定されました

    改正民法では、父母が子に対して負う責任が明確に定められました。

    父母は、婚姻の有無にかかわらず、子どもの心身の健やかな成長を図るため、その人格を尊重し、協力して養育することが義務付けられています。

    この改正は、親子関係において子どもの権利を重視し、親同士が協力する重要性を法的に裏付けたものです。

    2. 親権制度の見直しと共同親権の導入

    これまで離婚後は、一方の親のみが親権を持つことが原則でしたが、今回の改正で父母双方が親権を持つ「共同親権」が認められました。

    単独親権となる場合

    • 父母間で協議が整わない場合
    • 虐待や家庭内暴力があり、子の利益が害されるおそれがある場合

    親権変更の際には、協議の経過も重視され、不適切な合意を防ぐ制度も整えられました。

    3. 養育費支払い確保のための法整備

    養育費の不払いを防ぐため、今回の改正で養育費債権に優先的な差押権(先取特権)が認められ、債務名義がなくても差押えが可能になりました。

    また、父母間の協議が整わなくても養育費を請求できる新たな法制度も創設され、養育費の履行確保が実質的に強化されています。

    4. 安全・安心な親子交流の支援

    離婚後も子どもと別居している親が交流できるよう、次の仕組みが整えられました。

    親子交流の新たなルール

    • 調停・審判の前に試験的に親子交流を行うことが可能に
    • 婚姻中の別居時にも親子交流ルールを適用

    これにより、子どもが安心して親と交流を続けることができる環境が法的に支援されました。

    5. その他の家族法関連の改正点

    今回の改正では、次のような家族法全体に関わる見直しも行われました。

    • 養子縁組後の親権者に関する規定を明確化
    • 離婚時の財産分与請求期間が2年から5年に延長
    • 財産分与の考慮要素の具体化
    • 祖父母など親族と子どもの交流に関する新しい規定を整備

    これらの改正は、現代の家族の多様な形に対応した柔軟な法制度を目指しています。

    【まとめ】令和6年民法改正は子ども中心の法改正

    今回の民法改正は、親子関係のルールを現代社会に合わせて大きく見直したものです。

    親の責務の明確化、共同親権の導入、養育費履行の強化、親子交流支援など、すべてにおいて子どもの利益を第一に考えた内容となっています。

    次回のブログでは、「親の責務等に関する規律」について、さらに詳しく解説します。ぜひご覧ください。

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