2024年に提出された民法改正案により、親権制度の見直しが注目されています。本記事では、民法第766条の解釈や運用に大きく影響するこの改正の要点を、改正前と改正後に分けて整理し、わかりやすくご紹介します。
改正前の状況:民法第766条とは
民法第766条は、父母が離婚する際の「子の監護に関する事項」について定めた条文です。現行法では、「子の利益を最も優先して考慮すること」が明記され、親権や養育のあり方を判断する際の基本方針とされています。
しかし実務上では、次のような課題が指摘されてきました。
- 親子の交流が断たれたり、制限される事例が多く、「子の利益」の解釈が一貫していない。
- 離婚後は「単独親権」が原則であり、父母いずれか一方が親権者となる。
- 離婚時に取り決めがされないケースが多く、養育費の合意率は46.7%、面会交流は30.3%にとどまっている。
改正案のポイント:共同親権と「子の利益」の明確化
今回の民法改正案は、第766条の文言自体を大きく書き換えるのではなく、親権制度全体を見直すことにより、その運用や理念の実効性を高めることを目的としています。主な変更点は以下の通りです。
1. 離婚後の共同親権の導入
- これまでの単独親権に加えて、離婚後も父母が共に親権を持つ「共同親権」が選択可能になります。
- 父母が協議して共同親権または単独親権を選び、合意に至らない場合は家庭裁判所が判断します。
- DVや虐待がある場合は、引き続き単独親権が原則とされます。
2. 「子の利益」の定義の明確化
- 法務大臣は、「子の利益」について「人格が尊重され、年齢や発達が図られること」と説明。
- 別居や離婚後でも、父母双方が責任をもって子の養育に関わることが重要とされます。
- 親の養育責任を明確にする新たな規定も追加される予定です。
3. 養育計画(監護の分掌)の明確化
- 父母が離婚時に養育計画を協議して作成することが可能であると明記。
- 現状の低い合意率を改善し、「子の利益」に資する制度運用を目指します。
4. 親権と監護権の分離の柔軟化
- 共同親権のもとでも、監護者(子の生活面を実際に担当する者)を個別に定められます。
- 監護者の指定は、個別の家庭事情を考慮し、「子の利益」を最優先に決定されます。
5. 養育時間の分担に関するガイドラインの整備
- 養育時間の公平な分担のため、児童心理学の専門知見に基づくガイドライン作成が検討されています。
- 養育スケジュールの明確化により、離婚後の安定した親子関係が期待されます。
今後の見通しと課題
この改正案は、子どもの権利と福祉をより強く保護するための重要な一歩です。一方で、共同親権の導入に対してはさまざまな立場からの意見があり、今後の議論と制度設計が注目されています。
法制度の変更に際しては、法律の専門家による冷静な分析と実務的なサポートが必要不可欠です。当事務所では、最新の法改正情報を正確に把握し、市民の立場からわかりやすく解説を行ってまいります。