投稿者: 行政書士吉村

  • 成年後見制度とは?制度の種類と注意点をわかりやすく解説

    成年後見制度とは?制度の種類と注意点をわかりやすく解説

    成年後見制度とは?概要と種類をわかりやすく解説

    成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分になった方を、 法律的に保護・支援する仕組みです。
    判断能力が低下すると、財産管理や契約手続きが困難となり、不利益を被るおそれがあります。
    ここでは、成年後見制度の概要・種類・利用時の注意点について、わかりやすく解説します。

    1. 成年後見制度の目的と必要性

    判断能力が低下すると、本人の意思確認ができなくなり、家族であっても 預金の引き出しや不動産の売却、入院や施設入所の契約などができません。
    成年後見制度を利用することで、家庭裁判所の監督のもと、 財産や生活を適切に守ることができます。

    2. 成年後見制度の種類

    成年後見制度には大きく分けて、次の二種類があります。

    • 法定後見制度:判断能力が低下した後に利用。家庭裁判所が後見人を選任。
    • 任意後見制度:判断能力があるうちに契約をしておき、将来に備える仕組み。
    制度開始時期後見人の選任権限の範囲取消権
    法定後見判断能力が低下した後家庭裁判所広範囲にわたるあり
    任意後見判断能力があるうち本人が契約(公正証書)契約内容の範囲内なし

    3. 法定後見制度の3つの類型

    法定後見は、本人の判断能力の程度によって以下の3類型に分かれます。

    • 後見:判断能力がほとんどない場合。成年後見人が包括的に代理。
    • 保佐:判断能力が著しく不十分な場合。重要な行為について援助。
    • 補助:判断能力が一部不十分な場合。特定の行為に限り援助。

    4. 後見人の職務とできないこと

    主な職務

    • 財産管理(預貯金、不動産、税金支払いなど)
    • 身上監護(介護サービス利用契約、施設入退所契約など)
    • 家庭裁判所への定期報告

    制限される行為

    • 医療行為への同意(手術や延命治療の可否など)
    • 養子縁組や遺言作成などの身分行為
    • 本人の利益にならない贈与や相続税対策

    5. 成年後見制度の費用

    • 申立費用: 約2万円(申立手数料・郵券代など)。専門家依頼時は別途10万〜30万円程度。
    • 後見人の報酬: 専門職後見人の場合、月2万〜6万円程度(本人の財産から支払う)。

    6. 家族が後見人になる場合の注意点

    • 家庭裁判所の判断で、弁護士など専門職が選任されることが多い。
    • 家族が後見人になると費用は抑えられるが、事務負担が大きい。
    • 一度選任されると辞任は難しく、他の親族の同意も重要。

    7. 成年後見制度以外の選択肢:家族信託

    本人に判断能力があるうちに利用できる制度として「家族信託」があります。
    信頼できる家族に財産管理を託しておくことで、柔軟な資産管理や相続対策が可能です。
    ただし、身上監護(介護や医療契約)はできないため、 任意後見制度と併用して使われることもあります。

    まとめ

    成年後見制度は、判断能力が低下した本人を保護する大切な仕組みですが、 利用にはメリットとデメリットがあります。
    また、法定後見・任意後見・家族信託といった制度はそれぞれ特徴があり、 状況に応じた選択が重要です。
    実際に制度を利用する際は、家庭裁判所の審判や多くの書類準備が必要となるため、 制度の仕組みを正しく理解しておくことが欠かせません。

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  • 遺産寄付で相続税を抑える条件と手続き

    遺産寄付で相続税を抑える条件と手続き

    非課税とするための条件と手続き

    親の遺産を慈善団体に寄付したいと考えたとき、相続税はどのように扱われるのか──本記事では国税庁の制度を基に「非課税となる具体条件」と「申告手続きの実務ポイント」を整理して解説します。

    結論(要点まとめ)

    遺産寄付の相続税の取り扱いは寄付の方法によって異なります。主に次の2つのケースに分かれます。

    • 遺言で直接寄付(遺贈)する場合:相続人を経由せずに寄付されるため、原則として相続税はかかりません。
    • 相続人が一度相続した後に寄付する場合:原則課税。ただし国税庁の「相続財産を寄附した場合の非課税制度」を満たせば非課税になります。

    1. 遺言に基づく直接寄付(遺贈)のポイント

    遺言で「団体へ遺贈する」旨がある場合、その財産は相続人を経由せずに寄付先へ渡ります。この場合、相続人が財産を取得したとはみなされないため、相続税は基本的に発生しません。

    注意点:譲渡所得税の可能性

    ただし、不動産や上場株式などを遺贈した場合、被相続人の死亡時に譲渡したとみなされるケースがあり、譲渡所得税の問題が生じる可能性があります。事前に税務の専門家に確認してください。

    2. 相続人が受け取ってから寄付する場合(非課税にする4要件)

    相続人が一度財産を取得してから寄付する場合でも、次の要件をすべて満たせば相続税の非課税特例が適用されます。

    非課税特例の4つの要件

    1. 寄付財産が相続や遺贈で取得した「現物」であること
      (例:相続で取得した現金・預金・不動産・株式等そのもの。取得後に売却して得た現金は不可。)
    2. 相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに寄付が完了していること
      (期限を過ぎると特例は適用されません。)
    3. 寄付先が国・地方公共団体・公益法人・認定NPOなど適格な公益団体であること
      (任意団体や一般企業は対象外。寄付先の適格性は事前確認が必須。)
    4. 寄付を証明する書類(受領証や寄付契約書等)を申告書に添付すること
      (申告に必要な明細書の記載・添付がないと適用されません。)

    実務上のポイント

    • 寄付前に寄付先の「公益性(適格性)」を書面で確認しておくと安全です。
    • 相続税申告を税理士に依頼する場合でも、寄付の証明書類は相続人が確実に保管しておきましょう。
    • 株式や土地などの評価方法や時価の算定が問題となることがあります。評価額は相続税申告で重要です。

    3. 国税庁の制度(No.4141)に基づく適用範囲

    国税庁が示す特例では、主に次の寄付パターンが対象となります。

    寄付先の主な分類

    • 国・地方公共団体
    • 特定の公益法人(例:公益社団法人・公益財団法人、学校法人、独立行政法人など)
    • 認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)
    • 特定の公益信託(信託会社を通じて公益信託に組み入れる場合)

    適用除外の例

    以下に該当すると特例の適用が取り消されることがあります。

    • 寄付先が寄付から2年以内に公益性を失った場合
    • 寄付を通じて特定の相続人が不当に利益を受けるなど、不当な税負担の減少が認められる場合

    4. 手続きと必要書類(チェックリスト)

    非課税特例の適用を受けるために必要な手続きと提出書類は次のとおりです。

    必須書類(主なもの)

    • 相続税申告書(特例適用の旨を記載)
    • 寄附した財産の明細書(相続税申告書第14表)
    • 寄付先からの受領証または寄付契約書
    • 寄付先が公益法人等であることを証明する書類(必要に応じて所轄庁の証明)

    手続きの流れ(簡易)

    1. 寄付先の適格性を事前に確認する(書面で保存)
    2. 寄付(相続税申告期限内に完了)
    3. 必要書類を揃えて相続税申告書に添付して提出
    4. 税務署の確認を経て非課税が適用される

    5. よくある質問(FAQ)

    Q1:遺言で寄付するとき、相続人の手続きは必要ですか?

    A:遺言で直接寄付(遺贈)される場合、寄付先へ財産が移転するため、相続人がその財産を受け取ったとはみなされません。ただし相続放棄や遺言の執行など、手続き上の対応が必要になる場合があります。

    Q2:寄付先の「公益性」はどこで確認できますか?

    A:寄付先の法人格や認定状況は、所轄庁の公開情報や寄付先からの公式な証明書で確認します。認定NPOかどうか、公益法人の認定有無などを文書で取得してください。

    Q3:相続開始後に売却して得た現金を寄付したらダメですか?

    A:原則として、相続で取得した財産を現物のまま寄付することが要件です。相続財産を売却して得た現金は非課税特例の対象にならないため注意が必要です。

    まとめとご案内

    遺産寄付における相続税の取り扱いは、寄付の方法・寄付先・申告期限・証明書類の有無によって結果が大きく異なります。正確に非課税を適用するためには、寄付先の適格性の確認・申告期限の厳守・必要書類の整備が不可欠です。実務上の判断や税務評価に関する個別のご相談は、税理士や行政書士・弁護士などの専門家へご相談ください。

    (本稿は国税庁資料に基づく一般的な解説であり、事例により取扱いが異なる場合があります。)

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  • 公正証書遺言は本当に安全か?―無効とされるケースと対策を解説

    公正証書遺言は本当に安全か?―無効とされるケースと対策を解説

    公正証書遺言でも無効?意思能力と対策を解説

    公正証書遺言は本当に安全か?無効とされる理由と対策

    遺言書は、故人の意思を家族に伝える大切な手段です。特に公正証書遺言は「公証人が関与するため安全」と思われがちですが、実際には無効とされるケースが裁判例で数多く存在します。
    本記事では、公正証書遺言が無効になる理由と、無効を防ぐための対策をわかりやすく解説します。

    公正証書遺言とは?

    遺言書には大きく分けて2種類があります。

    • 自筆証書遺言:本人が自ら全文を書いて作成する。費用がかからない反面、形式不備で無効になるリスクが高い。
    • 公正証書遺言:公証人が関与して作成する。形式面では安全性が高いとされる。

    しかし、公正証書遺言でも「必ず有効」とは限りません。

    公正証書遺言が無効とされる主な理由

    1. 遺言者本人の判断能力の欠如

    民法第963条は「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」と定めています。
    例えば次のような場合には無効と判断される可能性があります。

    • 認知症と診断されていた。
    • 介護記録や証言から「正常な判断ができなかった」と認められた。
    • 遺言内容が不自然で、本人の真意ではないと疑われる。

    2. 公証人による確認不足

    公証人は法律の専門家ですが、確認が十分でない場合もあります。

    • 遺言書を読み上げるだけで、本人の理解を確認していない。
    • 家族や専門家が原案を作成し、本人は署名するだけ。
    • 本人確認が印鑑証明だけで済まされ、意思能力の確認が不十分。

    遺言能力とは?

    遺言能力とは「有効に遺言を行える能力」のことです。本人が遺言の内容を理解し、その結果を予測できる力が求められます。

    関連条文内容
    民法961条15歳に達した者は遺言できる
    民法963条遺言時に能力を有しなければならない

    判断基準としては、医師の診断、認知機能テスト、遺言内容の合理性などが重視されます。

    無効を防ぐための生前対策

    1. 医師の診断書を取得

    遺言作成直後に「意思能力あり」とする診断書を残しておくと有効性を証明しやすくなります。

    2. 遺言能力の証拠を残す

    • 認知機能テストの結果を保存
    • 作成時の様子を動画記録
    • 弁護士など専門家の立会いを依頼

    3. 遺言執行者の指定

    公正証書遺言を作成する際、信頼できる専門家を遺言執行者に指定しておくと安心です。

    死後に無効が疑われた場合

    相続人同士で争いになった場合は、遺言無効確認訴訟を起こすことになります。

    • 裁判ではカルテや介護記録などの客観的証拠が重視される。
    • 第一審だけで1~2年かかることもある。
    • 無効と判断されれば遺産分割協議が必要になる。

    まとめ

    • 公正証書遺言でも無効になることがある。
    • 最大のポイントは「遺言能力(意思能力)」の有無。
    • 診断書や動画記録など、客観的な証拠を残すことが重要。

    相続争いの多くは「一般家庭」で起きています。大切な家族のために、早めに法的に有効な遺言を準備しておくことがトラブル防止につながります。

    ご不明な点がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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  • 【執行・財産開示手続の改正】養育費回収がワンストップ化!法改正のポイントを徹底解説

    【執行・財産開示手続の改正】養育費回収がワンストップ化!法改正のポイントを徹底解説

    1.改正の背景と目的

    従来、養育費などの扶養義務に基づく債権の回収には、複数の申立てが必要で、債権者の負担が大きいという課題がありました。債務者の財産情報も取得しにくく、強制執行に至るまでのプロセスが煩雑でした。

    今回の改正では、手続のワンストップ化収入情報の強制的な開示制度の導入が実現され、養育費の履行確保がより現実的になりました。

    2.改正のポイント

    【1】民事執行法 第167条の17(扶養義務等に係る債権の特例)

    ■ 改正内容
    養育費等の債権について、財産開示手続の申立てと同時に、債権差押命令の申立てがされたものとみなされる制度が創設されました。

    ■ 改正前との違い
    これまでは、以下の手続を別々に申し立てる必要がありました:

    • ① 財産開示手続申立て
    • ② 財産調査(住民票等取得)
    • ③ 債権差押命令申立て

    改正により、これらが一括で同時に処理されるようになり、債権者の負担が軽減されます。

    ■ 具体例
    養育費の支払いを拒否している債務者に対し、財産開示手続を申し立てると、給与債権への差押命令が自動的に行われ、住民票取得命令も裁判所の職権で実施されます。

    【2】人事訴訟法 第34条の3(収入情報等の開示命令)

    ■ 改正内容
    家庭裁判所が、養育費分担請求の場面で、当事者に収入・資産の状況の開示を命じることが可能になりました。

    ■ 改正前との違い
    これまでは任意協力に頼るしかなく、正確な情報が得られないこともありましたが、今後は法的拘束力を持って開示を命じることができます。

    ■ 制裁措置
    虚偽の情報を提出した場合や正当な理由なく拒否した場合には、10万円以下の過料が科されることがあります。

    【3】家事事件手続法 第152条の2(収入情報等の開示命令)

    ■ 適用対象の審判

    • ・夫婦間の協力扶助
    • ・婚姻費用分担
    • ・子の監護費用
    • ・財産分与

    上記の審判手続でも収入情報の開示命令が適用され、生活費や財産分与に関する法的支援が強化されました。

    3.改正の実務的意義

    • ● 手続がワンストップ化され、養育費回収までのスピードが大幅に向上
    • ● 相手方の財産・収入状況が法的に把握しやすくなり、公平な養育費算定が可能に
    • ● 開示拒否や虚偽申告への制裁により、法的実効性が強化

    4.まとめ

    本改正は、養育費や婚姻費用などの支払いを確保し、子どもの生活を守るために重要な一歩です。

  • 経審評価UP!資本性借入金の活用方法

    経審評価UP!資本性借入金の活用方法

    いつもお世話になっております。

    行政書士吉村事務所の吉村です。


    建設会社の皆様にとって、公共工事の受注に欠かせないのが「経営事項審査(経審)」ですよね。その経審の評価を左右する重要な要素の一つが「自己資本」です。

    この度、国土交通省より、負債として計上されている借入金の一部を「自己資本」とみなすことができる新たな制度、「資本性借入金」に関する事務取扱いが発表されました。

    今回はこの制度の内容と、経審への具体的な影響を分かりやすく解説いたします。

    資本性借入金とは?

    資本性借入金とは、一定の条件を満たした借入金を「自己資本」として扱うことができる制度です。

    2025年7月1日以降の経審申請から適用され、対象は審査基準日が2025年3月31日以降の決算、かつ単独決算で申請する企業に限られます。

    経審での評価向上ポイント

    自己資本が増加してP点アップ

    建設会社が公共工事を受注するためには、経審での評価点(P点)が重要です。自己資本は経営安定性を示す重要指標で、以下の項目に影響します。

    • 負債回転期間:負債減少により改善
    • 自己資本対固定資産比率:自己資本増により改善
    • 自己資本比率:自己資本増により改善
    • X₂₁自己資本:評価点向上

    これにより、経営状況分析のY点が向上し、結果として総合評定値(P点)アップが期待できます。

    資本性借入金と認められる要件

    以下のすべての要件を満たす借入金が対象となります:

    • 金融機関(政府系含む)からの借入であること
      例:日本政策金融公庫の「挑戦支援資本強化特例制度」など
    • 償還期間が5年超
    • 期限一括償還(または同等の据置期間)
    • 配当可能利益に応じた金利(業績連動型)
    • 法的破綻時の劣後性の確保

    注意点: 残存期間が5年未満になると、自己資本として認められる金額は毎年20%ずつ逓減します。

    経審申請における具体的手続き

    ① 証明書の取得

    公認会計士・税理士・建設業経理士1級などの資格者から「資本性借入金」の証明書を取得(国土交通省様式)。

    ② 経営状況分析時の提出

    • 経営状況分析申請書に「資本性借入金 ○○○円」と記載
    • 証明書の写し・契約書の写しを添付
    • 証明者が建設業経理士の場合は合格証・修了証も添付

    ③ 経営規模等評価時の提出

    • 「自己資本額」の欄に資本性借入金を加算した額を記載
    • 再度、証明書の写しを添付

    まとめ:活用すれば経審に有利!

    この「資本性借入金」制度は、経審における自己資本評価の大幅な改善につながる可能性があります。


    まずは、貴社の借入契約がこの要件に該当するかを確認してみてください。

    ご不明な点やご相談がありましたら、お気軽にお問い合わせください。貴社の経審評価向上を全力でサポートいたします。

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  • (民法改正)法定養育費制度の創設を解説

    (民法改正)法定養育費制度の創設を解説

    2024年5月の民法改正により、「法定養育費制度」が新たに導入されました。

    この制度は、離婚時に養育費の取り決めがなくても、最低限の養育費を請求できる仕組みであり、子どもの貧困を防ぐ重要な改革です。

    本記事では、改正前後の違いとポイントをわかりやすく解説します。

    1. 改正前の制度とその課題

    従来の民法では、離婚の際に父母が協議して養育費の額を定めることが原則でした(民法766条)。

    協議が行われなかった場合、親権者が相手方に養育費を請求するのは容易ではありませんでした。

    ■主な課題

    • 養育費について協議せずに離婚するケースが多い
    • 請求するには家庭裁判所への申立てが必要
    • 結果的に養育費の不払いが多発

    このように、協議がないと養育費の請求が難しい制度だったのです。

    2. 改正後の制度:法定養育費制度の導入

    2024年の改正により、新たに民法766条の3が創設され、離婚時に養育費の取り決めがなくても、子どもを監護する親が相手方に対して法定の最低額を請求できるようになりました。

    ■改正のポイント

    • 養育費の取り決めがなくても自動的に請求が可能
    • 金額は法務省令による基準に基づき算出
    • 支払義務者は生活困難等を理由に減免を申立可能
    • 請求期限は協議成立・審判確定・子の成年のいずれか早い時点まで

    【具体例】

    養育費の協議が一切ないまま協議離婚した場合でも、離婚の翌月から法定の標準額(例:月3万円)を自動的に請求できます。

    3. 支払義務者への救済措置

    支払う側が生活保護を受けている場合や極度の低所得者である場合には、不公平にならないよう以下の救済措置が認められています。

    • 「支払能力がない」ことなどを証明すれば支払免除可
    • 家庭裁判所による柔軟な判断(免除・猶予など)

    4. 改正の背景と意義

    日本では離婚後に養育費を受け取っていない家庭が多く、子どもの貧困の大きな要因になっていました。

    今回の改正は、養育費を「当然の権利」と位置づけ、子どもの経済的安定を図るものです。

    なお、従来から民法881条において親の扶養義務は規定されており、今回の法改正はこれを具体化したものと言えます。

    5. 改正前と改正後の比較まとめ

    比較項目改正前改正後
    養育費の請求協議や裁判がないと困難協議なしでも自動で請求可
    支払額個別に協議・裁判で決定法務省令の標準額を適用
    支払免除特に規定なし生活困難等で免除申立可
    手続き負担親権者側の申立てが必要離婚時から当然に請求可

    6. まとめ

    今回の法改正により、養育費の不払い問題に対する大きな前進が実現しました。

    親権者は離婚後すぐに養育費を請求できるようになり、子どもの経済的な権利がより強く保護されます。

    離婚を考える方や、すでに離婚された方も、この制度の正しい理解が求められます。

    今後、法務省令により具体的な金額が発表された際には、改めて詳細な情報をお届けします。

    ご不明な点がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

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  • 【解説】養育費に優先権が認められる民法改正をわかりやすく解説

    【解説】養育費に優先権が認められる民法改正をわかりやすく解説

    ~養育費債権がより強く、確実に回収できるように~

    令和6年(2024年)の民法改正により、養育費債権に「先取特権」が付与されました。これにより、債務名義がなくても差押えが可能となる、大きな実務上の変化が生じています。

    本記事では、改正前と改正後の違いを条文をベースに具体的に解説します。

    1.改正前の状況:養育費の回収は困難だった

    これまで、養育費の支払いが滞った場合でも、相手の財産を差し押さえるには、判決・調停・公正証書などの債務名義が必要でした。

    家庭裁判所での手続きを経なければ強制執行できず、その間に相手が財産を移すリスクも高く、回収は困難でした。

    また、「先取特権」は民法上存在していましたが、「子の監護の費用」として認められるケースは限定的で、実務上ほとんど使われていませんでした。

    2.改正内容:養育費債権に一般の先取特権を付与

    今回の改正で、民法第306条に新たに「子の監護の費用(養育費)」が明記されました。

    【改正後:民法第306条 抜粋】

    次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。

    • 共益の費用
    • 雇用関係
    • 子の監護の費用(新設)
    • 葬式の費用
    • 日用品の供給

    この改正により、養育費債権は総財産に対して優先的に差押えが可能となり、しかも債務名義が不要という大きな利点が生まれました。

    たとえば、協議離婚で養育費を取り決めたが公正証書を作っていない場合でも、先取特権により差押えが可能になります。

    3.より具体的なルール:民法第308条の2の新設

    今回の改正では、先取特権の対象となる養育費債権の根拠条文や差押え額の算定方法も明文化されました。

    【改正後:民法第308条の2 概要】

    以下の義務に基づく養育費に先取特権が認められます:

    • 第752条(夫婦の協力義務)
    • 第760条(婚姻費用の分担)
    • 第766条、第766条の3(離婚後の監護義務)
    • 第877条~第880条(扶養義務)

    また、差押え可能な金額は「子の監護に要する標準的な費用」とされ、法務省令で具体的な金額が定められることになります。

    このルールにより、過剰な差押えを防ぎつつ、必要最低限の養育費は迅速に回収可能となります。

    4.改正のポイントまとめ

    項目改正前改正後
    差押えに必要な手続き債務名義が必要債務名義なしでも差押え可能
    法的根拠明記なし民法306条に明記
    優先順位なし総財産に対して優先権あり
    計算方法個別判断法務省令で標準額を算定

    5.まとめ:養育費確保の大きな一歩

    今回の改正は、養育費の未払い問題に大きな解決策をもたらすものです。

    これまで泣き寝入りするしかなかった多くのケースで、債務名義がなくても差押えができることになり、養育費の支払い率向上が期待されています。

    養育費を受け取る側は、この「先取特権」が利用できることを知っておくことが非常に重要です。

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  • 離婚後の親権と監護の違いとは?改正民法824の3のポイント

    離婚後の親権と監護の違いとは?改正民法824の3のポイント

    民法の改正案が審議され、離婚後の子どもの養育に関するルールが大きく見直されようとしています。

    特に注目されているのが、「親権」と「監護」の違い、そして共同親権の導入です。

    この記事では、改正内容をわかりやすく解説し、皆さまの疑問にお答えします。

    1. 親権と監護の違いとは?

    親権

    • 子の養育全般に関する包括的な権利義務
    • 子の財産管理や代理権も含む
    • 改正案では離婚後も共同親権の選択が可能に

    監護

    • 子の生活・教育などの身上監護に関する具体的権限
    • 改正民法第824条の3により明確化
    • 居所の指定や教育方針などは監護者が単独で判断可能
    • 親権者でも監護者でなければ監護行為に干渉不可
    • 監護者には財産管理権・代理権はない

    2. 共同親権なのに監護者が一方に?

    共同親権を選んだ場合でも、監護者は一方に限定されることがあります。

    これは主に「子の利益」を最優先に考慮した結果で、以下のような事情が背景にあります。

    • 父母間の将来の紛争リスクを回避する必要がある場合
    • 進学先や居所などの決定での対立を予防
    • 国際結婚に限らず、日本国内の離婚でも同様の判断がされうる

    3. 監護者の指定は必須ではない理由

    改正案では、監護者の指定は必須ではありません

    離婚後も父母が責任を持って養育に関わるという基本理念に基づいており、家庭の事情に応じて柔軟な運用が求められています。

    4. 子の利益を最優先にした法改正

    今回の改正案の中心は「子の利益の確保」です。多様な家族形態や価値観に対応し、できる限り父母が協力して子育てを行うことが、子どもの最善の利益に資するとの考え方が示されています。

    5. 親権行使における特定の事項と日常の行為

    特定の事項(改正民法824条の2第3項)

    • 進学先など、意見対立の可能性がある重要事項
    • 協議不成立時は家庭裁判所が判断

    日常の行為(改正民法824条の2第2項)

    • 日常生活での監護行為
    • 短期の旅行などは通常、日常の行為に含まれる

    6. DV・虐待と親権の関係

    • 葛藤があるからといって直ちに単独親権になるわけではない
    • 裁判所は調停等を通じて両親の協力を促す
    • DVや虐待がなくても、状況により単独親権の判断はあり得る
    • 「おそれ」の判断は客観的証拠に限らず総合的に考慮

    7. 改正後の運用と裁判所の役割

    監護者と親権者の違いやDVの判断基準、特定の事項の定義など、具体的な運用に不透明さが残っているとの指摘があります。

    裁判所の判断に頼る場面も多くなると考えられ、今後の実務の展開が注目されます。

    まとめ:離婚後の親権・監護は慎重に判断を

    今回の民法改正案は、子の利益を第一に、多様な家族に対応できる制度設計を目指しています。

    共同親権や監護権の明確化は、離婚後も親が連携して子の養育に関わる道を開くものです。

    離婚後の親権や監護でお悩みの方は、ご相談ください。個別の事情に応じたアドバイスが重要です。

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  • 民法第766条改正のポイントをわかりやすく解説

    2024年に提出された民法改正案により、親権制度の見直しが注目されています。本記事では、民法第766条の解釈や運用に大きく影響するこの改正の要点を、改正前と改正後に分けて整理し、わかりやすくご紹介します。

    改正前の状況:民法第766条とは

    民法第766条は、父母が離婚する際の「子の監護に関する事項」について定めた条文です。現行法では、「子の利益を最も優先して考慮すること」が明記され、親権や養育のあり方を判断する際の基本方針とされています。

    しかし実務上では、次のような課題が指摘されてきました。

    • 親子の交流が断たれたり、制限される事例が多く、「子の利益」の解釈が一貫していない
    • 離婚後は「単独親権」が原則であり、父母いずれか一方が親権者となる。
    • 離婚時に取り決めがされないケースが多く、養育費の合意率は46.7%、面会交流は30.3%にとどまっている。

    改正案のポイント:共同親権と「子の利益」の明確化

    今回の民法改正案は、第766条の文言自体を大きく書き換えるのではなく、親権制度全体を見直すことにより、その運用や理念の実効性を高めることを目的としています。主な変更点は以下の通りです。

    1. 離婚後の共同親権の導入

    • これまでの単独親権に加えて、離婚後も父母が共に親権を持つ「共同親権」が選択可能になります。
    • 父母が協議して共同親権または単独親権を選び、合意に至らない場合は家庭裁判所が判断します。
    • DVや虐待がある場合は、引き続き単独親権が原則とされます。

    2. 「子の利益」の定義の明確化

    • 法務大臣は、「子の利益」について「人格が尊重され、年齢や発達が図られること」と説明。
    • 別居や離婚後でも、父母双方が責任をもって子の養育に関わることが重要とされます。
    • 親の養育責任を明確にする新たな規定も追加される予定です。

    3. 養育計画(監護の分掌)の明確化

    • 父母が離婚時に養育計画を協議して作成することが可能であると明記。
    • 現状の低い合意率を改善し、「子の利益」に資する制度運用を目指します。

    4. 親権と監護権の分離の柔軟化

    • 共同親権のもとでも、監護者(子の生活面を実際に担当する者)を個別に定められます。
    • 監護者の指定は、個別の家庭事情を考慮し、「子の利益」を最優先に決定されます。

    5. 養育時間の分担に関するガイドラインの整備

    • 養育時間の公平な分担のため、児童心理学の専門知見に基づくガイドライン作成が検討されています。
    • 養育スケジュールの明確化により、離婚後の安定した親子関係が期待されます。

    今後の見通しと課題

    この改正案は、子どもの権利と福祉をより強く保護するための重要な一歩です。一方で、共同親権の導入に対してはさまざまな立場からの意見があり、今後の議論と制度設計が注目されています。

    法制度の変更に際しては、法律の専門家による冷静な分析と実務的なサポートが必要不可欠です。当事務所では、最新の法改正情報を正確に把握し、市民の立場からわかりやすく解説を行ってまいります。

  • 親権の行使方法|改正民法第824条の2を解説

    親権の行使方法|改正民法第824条の2を解説

    2024年(令和6年)5月に民法が改正され、新たに民法第824条の2が追加されました。

    本条文は、親権の行使方法を明確にするもので、共同親権に関連して今後重要な役割を果たします。

    民法第824条の2とは

    民法第824条の2は、「親権の行使方法等」について定める条文です。

    公布日から2年以内に施行される予定であり、親権の共同行使と単独行使の範囲について具体的に記されています。

    条文のポイント

    • 親権は原則として父母が共同して行う
    • 以下の場合には、一方の親が単独で行使できる。
      • 一方のみが親権者である場合
      • 他方が親権を行使できない場合(喪失・行方不明等)
      • 子の利益のため急迫の事情がある場合
    • 日常の監護・教育行為については単独で行使可能
    • 意見が合わない場合、家庭裁判所が一方の単独行使を認めることができる

    親権の共同行使と単独行使の違い

    共同行使の原則

    父母がともに親権者である場合、親権は共同で行使することが原則です。

    進学、転居、手術の同意など、重要な事項は協議が必要です。

    単独での親権行使が認められる場面

    • 離婚後、一方の親のみが親権者とされた場合
    • 他方の親が長期不在、連絡不能などの場合
    • 緊急医療、入学手続など急迫の事情がある場合

    「日常の行為」とは

    例えば以下のような行為は、単独での親権行使が可能です。

    • 習い事の申込み・解約
    • 高校生のアルバイト許可
    • 定期予防接種や風邪の治療

    一方、以下のような事項は「日常の行為」に含まれないとされています。

    • 私立小・中学校への入学
    • 高校進学・中退
    • 海外留学や転居
    • 重大な医療処置(手術等)

    協議が整わない場合と家庭裁判所の関与

    重要な事項で父母の意見が分かれ、協議が調わない場合には、家庭裁判所が判断を行います。

    子の利益を最優先に、一方の単独行使を認める決定がされることがあります。

    今後の動向と周知活動

    「急迫の事情」や「日常の行為」の定義はやや曖昧との指摘もあり、今後は法務省によって、インターネットやパンフレット等を通じた周知活動が行われる予定です。

    まとめ

    民法第824条の2は、親権の具体的な行使方法を定める新しいルールです。

    特に共同親権のもとで、どのような場合に単独で判断できるかが明文化された点は、実務においても大きな意義があります。

    行政手続や家庭裁判所への申し立てなど、状況に応じた適切な対応が求められます。

    当事務所では、法改正に関するご相談にも対応しておりますので、お気軽にお問い合わせください。

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