1.改正の背景と目的
従来、養育費などの扶養義務に基づく債権の回収には、複数の申立てが必要で、債権者の負担が大きいという課題がありました。債務者の財産情報も取得しにくく、強制執行に至るまでのプロセスが煩雑でした。
今回の改正では、手続のワンストップ化と収入情報の強制的な開示制度の導入が実現され、養育費の履行確保がより現実的になりました。
2.改正のポイント
【1】民事執行法 第167条の17(扶養義務等に係る債権の特例)
■ 改正内容
養育費等の債権について、財産開示手続の申立てと同時に、債権差押命令の申立てがされたものとみなされる制度が創設されました。
■ 改正前との違い
これまでは、以下の手続を別々に申し立てる必要がありました:
- ① 財産開示手続申立て
- ② 財産調査(住民票等取得)
- ③ 債権差押命令申立て
改正により、これらが一括で同時に処理されるようになり、債権者の負担が軽減されます。
■ 具体例
養育費の支払いを拒否している債務者に対し、財産開示手続を申し立てると、給与債権への差押命令が自動的に行われ、住民票取得命令も裁判所の職権で実施されます。
【2】人事訴訟法 第34条の3(収入情報等の開示命令)
■ 改正内容
家庭裁判所が、養育費分担請求の場面で、当事者に収入・資産の状況の開示を命じることが可能になりました。
■ 改正前との違い
これまでは任意協力に頼るしかなく、正確な情報が得られないこともありましたが、今後は法的拘束力を持って開示を命じることができます。
■ 制裁措置
虚偽の情報を提出した場合や正当な理由なく拒否した場合には、10万円以下の過料が科されることがあります。
【3】家事事件手続法 第152条の2(収入情報等の開示命令)
■ 適用対象の審判
- ・夫婦間の協力扶助
- ・婚姻費用分担
- ・子の監護費用
- ・財産分与
上記の審判手続でも収入情報の開示命令が適用され、生活費や財産分与に関する法的支援が強化されました。
3.改正の実務的意義
- ● 手続がワンストップ化され、養育費回収までのスピードが大幅に向上
- ● 相手方の財産・収入状況が法的に把握しやすくなり、公平な養育費算定が可能に
- ● 開示拒否や虚偽申告への制裁により、法的実効性が強化
4.まとめ
本改正は、養育費や婚姻費用などの支払いを確保し、子どもの生活を守るために重要な一歩です。