【解説】養育費に優先権が認められる民法改正をわかりやすく解説

~養育費債権がより強く、確実に回収できるように~

令和6年(2024年)の民法改正により、養育費債権に「先取特権」が付与されました。これにより、債務名義がなくても差押えが可能となる、大きな実務上の変化が生じています。

本記事では、改正前と改正後の違いを条文をベースに具体的に解説します。

1.改正前の状況:養育費の回収は困難だった

これまで、養育費の支払いが滞った場合でも、相手の財産を差し押さえるには、判決・調停・公正証書などの債務名義が必要でした。

家庭裁判所での手続きを経なければ強制執行できず、その間に相手が財産を移すリスクも高く、回収は困難でした。

また、「先取特権」は民法上存在していましたが、「子の監護の費用」として認められるケースは限定的で、実務上ほとんど使われていませんでした。

2.改正内容:養育費債権に一般の先取特権を付与

今回の改正で、民法第306条に新たに「子の監護の費用(養育費)」が明記されました。

【改正後:民法第306条 抜粋】

次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。

  • 共益の費用
  • 雇用関係
  • 子の監護の費用(新設)
  • 葬式の費用
  • 日用品の供給

この改正により、養育費債権は総財産に対して優先的に差押えが可能となり、しかも債務名義が不要という大きな利点が生まれました。

たとえば、協議離婚で養育費を取り決めたが公正証書を作っていない場合でも、先取特権により差押えが可能になります。

3.より具体的なルール:民法第308条の2の新設

今回の改正では、先取特権の対象となる養育費債権の根拠条文や差押え額の算定方法も明文化されました。

【改正後:民法第308条の2 概要】

以下の義務に基づく養育費に先取特権が認められます:

  • 第752条(夫婦の協力義務)
  • 第760条(婚姻費用の分担)
  • 第766条、第766条の3(離婚後の監護義務)
  • 第877条~第880条(扶養義務)

また、差押え可能な金額は「子の監護に要する標準的な費用」とされ、法務省令で具体的な金額が定められることになります。

このルールにより、過剰な差押えを防ぎつつ、必要最低限の養育費は迅速に回収可能となります。

4.改正のポイントまとめ

項目改正前改正後
差押えに必要な手続き債務名義が必要債務名義なしでも差押え可能
法的根拠明記なし民法306条に明記
優先順位なし総財産に対して優先権あり
計算方法個別判断法務省令で標準額を算定

5.まとめ:養育費確保の大きな一歩

今回の改正は、養育費の未払い問題に大きな解決策をもたらすものです。

これまで泣き寝入りするしかなかった多くのケースで、債務名義がなくても差押えができることになり、養育費の支払い率向上が期待されています。

養育費を受け取る側は、この「先取特権」が利用できることを知っておくことが非常に重要です。

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