民法第819条の改正内容とその解説

改正の趣旨

これまで日本の民法では、離婚後の父母のいずれか一方を「単独親権者」と定める制度が採られていました。しかし、国際的には離婚後も「共同親権」を認める法制度が一般的であり、日本の制度との乖離が指摘されてきました。
今回の改正は、「子の利益の最大化」を主眼に、離婚後も父母が共同して親権を行使できる制度へと転換する重要な一歩です。

第819条の条文比較と解説

【第819条第1項】(協議離婚時の親権者指定)

改正前:
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その一方を親権者と定めなければならない。
改正後:
父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。
解説:
これまでは、協議離婚時に必ずどちらか一方のみを親権者としなければならず、父母双方を親権者とすることは認められていませんでした。改正により、父母の合意があれば、離婚後も共同親権を選択できるようになりました。これは、父母双方が継続して子の養育に関わることを可能にする重要な転換点です。

【第819条第2項】(裁判離婚時の親権者指定)

改正後:
裁判所は、父母の双方または一方を親権者と定めることができるようになりました。
解説:
裁判離婚でも、裁判所が共同親権を認める判断が可能になりました。ただし、共同親権が必ず認められるわけではなく、「子の利益」が最優先され、状況に応じて単独親権が選択されることも当然にあります。

【第819条第3項】(出生前離婚の場合の親権)

改正後:
出生後、父母の協議により共同親権も選択可能になりました。
解説:
従来は、出生後に父を単独親権者とすることのみが可能でしたが、改正により出生後に共同親権も選択できるようになりました。離婚時点での母の親権を原則としつつ、父母双方が望む場合に、出生後の共同親権を認める柔軟性が導入されました。

【第819条第4項】(認知した子の親権)

改正後:
父母の合意により、共同親権が可能になりました。
解説:
改正前は、母の単独親権が原則であり、例外的に父が単独親権者になることのみ認められていました。改正により、父母が合意すれば、共同親権も可能となります。非婚の父母でも、父母双方が育児に積極的に関わる道が広がったことを意味します。

【第819条第5項】(協議が不調の場合)

解説:
協議ができない場合、裁判所が判断する制度自体は変わりませんが、単独親権か共同親権かを家庭裁判所が総合的に判断する場面が生まれました。

【第819条第6項】(親権者変更)

改正後:
「子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。」
解説:
改正により、親権者変更の申立てが「子本人」からも可能になりました。これは子の権利を尊重する現代的な改正であり、子ども自身が家庭環境に対して異議を申し立てられる重要な制度的保障です。

【第819条第7項(新設)】(単独親権を選択すべき場合)

条文の趣旨:

家庭裁判所は、共同親権か単独親権かを判断する際に「子の利益」を最優先に考慮しなければならず、以下のような場合には必ず単独親権としなければならないと定められました。

  • ① 父母のいずれかが子の心身に害悪を及ぼすおそれがあるとき。
  • ② DV等が存在する場合、または親権を共同で行うことが困難と認められる事情がある場合。

解説:
特に、ここで重要なのは「DV等」の定義が身体的暴力に限られず、精神的な虐待や経済的支配も含む広範な概念である点です。裁判所は、単に両親の意思ではなく、子の安全性と福祉を重視し、共同親権が子の利益を害する場合は、必ず単独親権とする義務を負います。

【第819条第8項(新設)】(親権者変更時の協議経過の考慮)

条文の趣旨:

親権者変更時、家庭裁判所は「当初の協議の経過」をも重視しなければならないとしました。具体的には、

  • DV等が協議時に存在したか
  • 調停やADR(裁判外紛争解決手続)が利用されたか
  • 公正証書の作成が行われたか

これらを考慮し、当初の協議が適切に行われたかどうかを丁寧に判断します。

解説:
親権者を後から変更する場合に、形式的に「子の利益が害されているか」だけを見ず、過去の協議が公正であったかを検証する仕組みです。これにより、不適切な合意、強要、暴力に基づく協議が将来問題となった場合でも、裁判所はその協議の妥当性を再評価することが可能になります。

まとめ

今回の改正で、日本の親権制度は「単独親権が原則」から、「子の利益を最優先に、共同親権も選択可能な制度」へと進化しました。

  • 離婚後も共同親権が可能に
  • DV等の安全配慮に基づく単独親権の明文化
  • 子ども自身が親権者変更を求められる制度の導入

今後は、協議内容の記録やDVの有無の確認が一層重要になります。

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