はじめに
~大切なご家族を守るために~
高齢化が進む現代社会において、ご本人の判断能力が低下した場合の備えとして「法定後見制度」が注目されています。
この制度は、認知症・知的障害・精神障害などの理由により、判断能力が不十分な方が安心して生活できるよう、法的にサポートする仕組みです。
法定後見制度とは、判断能力が不十分な方に代わって、家庭裁判所の審判により選ばれた「後見人」が、財産管理や各種契約などを適切に行い、本人の権利を守る制度です。
後見人には、親族の方や弁護士・司法書士・行政書士などの専門職が選任されます。
この制度により、ご本人は不利益な契約から守られ、日常生活や財産の管理が安定し、安心して暮らせるようになります。
後見とは
認知症や知的障がいなどで判断能力が不十分な方を法的に支援する制度が「成年後見制度」です。ご本人に代わり、財産管理や契約の手続きなどを行う「成年後見人」は、家庭裁判所が選任します。申立てはご本人やご家族、市町村長などが行えますが、後見人には弁護士や行政書士などの専門職が選ばれることもあります。また、後見人の業務が適切に行われるよう、「成年後見監督人」が選ばれる場合もあります。
成年後見監督人の役割
成年後見監督人は、家庭裁判所から選任され、後見人の業務をしっかりと見守る立場にあります。後見人がきちんと職務を果たしているかを確認し、不適切な行為があれば必要な指導や報告、さらには後見人の交代を裁判所に求めることもあります。
とくに近年では、後見人による財産の私的流用や不正な管理が問題となっており、家庭裁判所も対策を強化しています。そのため、弁護士や司法書士などの専門職が成年後見監督人として選ばれるケースが増えています。
成年後見人の職務
成年後見人の職務は、大きく分けて「身上監護(しんじょうかんご)」と「財産管理」の二つです。
■ 身上監護 〜安心して暮らしていくための支援〜
身上監護とは、ご本人の生活全般に関わる契約や手続きを行うことです。たとえば、以下のような支援を行います。
医療機関との入院契約や治療に関する手続き
住まいの確保や、修繕・賃貸契約などの住宅関連の対応
福祉施設や介護施設への入退所手続き
介護サービスの利用契約や、日常生活を支えるための契約
年金や介護保険、各種給付の申請・手続き
これらの手続きは、ご本人が安心して暮らすために欠かせないものです。成年後見人が、法律にもとづいて適切に対応します。
■ 財産管理 〜大切な財産を守るために〜
財産管理とは、ご本人の財産を安全に管理し、無駄な支出や不利益を防ぐ役割です。主に以下のような業務を行います。
預貯金や株式、有価証券の管理
電気・ガス・水道料金や介護保険料などの支払い
所有する不動産の管理、必要に応じた売却・契約
所得税や固定資産税などの申告・納税
相続に関わる遺産分割や、贈与の受け取り手続き
ご本人の意思を尊重しながら、財産を適切に活用・管理していくことが求められます。
■ 重要なポイント
成年後見人は、ご本人の療養や介護そのものを直接行うわけではありません。しかし、必要な契約を締結し、費用の支払いを通じて、その生活を法律的に支える存在です。
ご本人が安心して暮らせるよう、そしてご家族が不安なく見守ることができるよう、成年後見制度は大きな力になります。
成年後見人の代理権と取消権
成年後見人には、被後見人の行為に関して「代理権」と「取消権」が与えられます。
代理権
成年後見人は、被後見人に代わって法律行為や財産管理を行います。ただし、以下のような一身専属的な権利については代理できません。
• 医療の同意
• 養子縁組
• 婚姻・離婚
• 選挙の投票
取消権
被後見人が行った法律行為のうち、不利益なものを成年後見人が後から取り消すことができます。ただし、日常生活に関する行為(例:食料品や衣料品の購入)は取消しの対象外です。
成年後見人の報酬
成年後見人や成年後見監督人は、家庭裁判所の判断により、被後見人の財産から適正な報酬を受けることができます。標準的な報酬額の目安は以下のとおりです。
成年後見人の基本報酬(月額)
• 通常の後見事務:2万円
• 管理財産額1,000万円超~5,000万円以下:3万円~4万円
• 管理財産額5,000万円超:5万円~6万円
被後見人の死亡後の成年後見人の権限
被後見人が亡くなると、成年後見制度は終了しますが、その後も一定の行為において成年後見人が権限を行使することができます。特に、相続手続きに関わる重要な役割を果たすため、以下の事項に関しては成年後見人が対応することが認められています。
- 相続財産の保存に必要な行為
被後見人の財産を適切に管理し、相続手続きに支障が出ないよう、必要な措置を講じることが求められます。財産の保全は、相続手続きがスムーズに進むための重要な作業です。 - 到来した債務の弁済
被後見人が生前に負っていた債務があれば、その弁済は後見人の責任となります。成年後見人は、債権者と協議の上で、必要な支払いを行います。 - 火葬・埋葬に関する契約の締結
被後見人の死後、火葬や埋葬に関する手続きも成年後見人が行うことができます。ただし、この契約の締結には家庭裁判所の許可が必要となりますので、法的な手続きを踏むことが求められます。
まとめ
- 成年後見制度は、判断能力が不十分な方を支援し、生活や財産を守るための制度です。
- 成年後見人の職務は「身上監護」と「財産管理」に分かれ、それぞれ重要な役割を担っています。
- 成年後見人には、「代理権」や「取消権」が与えられ、適切な判断と手続きが求められます。
- 成年後見人の報酬は、家庭裁判所によって決定され、業務の内容に応じた適切な金額が定められます。
- 被後見人が亡くなった後も、相続人による財産管理の引き継ぎが行われるまで、後見人の業務は一定期間継続されます。
成年後見制度は、判断能力が欠如した方の権利を守るために欠かせない制度です。もし制度の利用を検討されている場合は、専門的な知識を持つ行政書士に相談することで、スムーズに手続きを進めることができます。行政書士事務所では、成年後見制度に関するサポートを行っておりますので、お気軽にご相談ください。
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