カテゴリー: 相続・遺言・終活

  • 後見人がいれば保証人はいらない?行政書士が誤解を解説

    後見人がいれば保証人はいらない?行政書士が誤解を解説

    高齢化が進む中、「身寄りがない」「頼れる家族がいない」という方から、成年後見制度に関するご相談が年々増えています。
    その中でも特に多いのが、次のような疑問です。

    「成年後見人がいれば、病院や施設の保証人は不要なのでは?」

    一見もっともらしく聞こえますが、この考え方は“半分正解で、半分間違い”です。
    誤解したまま手続きを進めると、入院や施設入居の場面で思わぬトラブルになることもあります。

    この記事では、行政書士の立場から、

    • 後見人と保証人の違い
    • なぜ後見人は保証人になれないのか
    • 実務上、どう備えるのが正解なのか

    を、一般の方にもわかりやすく解説します。


    そもそも「保証人」とは何をする人?

    病院や高齢者施設で求められる「身元保証人(保証人)」には、法律で明確に定義された役割があるわけではありません。
    しかし、実務上は次のような役割を期待されています。

    • 入院費・施設利用料が支払えない場合の金銭的保証
    • 緊急時の連絡先
    • 退院・退所時の身柄引き取り
    • 死亡時の遺体・遺品の引き取りや手続き

    つまり保証人とは、本人とは別の「第三者」として責任を負う存在です。


    成年後見人の役割とは?保証人とはまったく違います

    成年後見人(法定後見人・任意後見人)は、本人に代わって、

    • 財産を管理する
    • 契約などの法律行為を代理する

    ための存在です。法律上は、「本人と同じ立場」で行動します。

    ここが非常に重要なポイントです。

    保証人は「本人とは別の第三者」でなければならない一方、後見人は「本人の代理人」。
    この立場の違いが、後見人が保証人になれない最大の理由です。


    なぜ後見人は保証人になれないのか【4つの理由】

    ① 本人と同じ立場だから(論理的に矛盾する)

    後見人が保証人になるということは、
    「本人が、自分自身の保証をする」のと同じ意味になります。

    これは法律的にも、論理的にも成り立ちません。

    ② 利益相反行為になるため

    後見人が保証人になると、

    • 支払いを請求する立場(保証人)
    • 支払いを判断・管理する立場(本人代理)

    を、同一人物が兼ねることになります。
    これは利益相反行為として、法律上認められていません。

    ③ 後見人は「自分のお金」で支払う義務はない

    後見人の役割は、あくまで本人の財産の中から支払いを行うことです。
    後見人自身の財産で立て替えたり、責任を負ったりする義務はありません。

    ④ 死後の対応ができない

    病院や施設が保証人に期待する役割には、

    • 死亡時の手続き
    • 遺品整理
    • 未払い費用の精算

    などが含まれます。
    しかし成年後見契約は、本人が亡くなると終了します。

    そのため、後見人は原則として死後の事務を行うことができません。


    それでも「後見人がいれば大丈夫」と言われる理由

    ここで混乱が生じやすいのですが、厚生労働省は次のような考え方を示しています。

    「身元保証人がいないことだけを理由に、入院や入所を拒否してはならない」

    後見人がいれば、

    • 本人の財産から確実に支払いが行われる
    • 契約手続きが適切に行われる
    • 連絡・調整役が明確になる

    という点で、実務上の不安は大きく軽減されるのは事実です。

    ただしそれは、「後見人=保証人」という意味ではありません。


    本当に安心するために必要な備えとは?

    「後見人がいれば安心」と思っていた方ほど、事前の備えが重要です。

    特に身寄りのない方・おひとりさまの場合は、

    • 任意後見契約
    • 事務委任契約(財産管理)
    • 死後事務委任契約

    組み合わせて準備することで、入院・施設入居・死亡後まで一貫したサポートが可能になります。


    行政書士に相談するメリット

    これらの契約は、単体で作ればよいものではなく、
    ご本人の状況・財産・将来の希望に合わせて設計することが重要です。

    行政書士は、

    • 任意後見契約
    • 事務委任契約
    • 死後事務委任契約
    • 遺言書

    をトータルで整理し、将来のトラブルを未然に防ぐお手伝いができます。


    まとめ|「後見人がいれば保証人はいらない」は誤解です

    • 後見人は保証人にはなれない
    • 保証人がいなくても入院・入所は可能なケースがある
    • 本当の安心には契約の組み合わせが必要

    「まだ元気だから大丈夫」と思っている今こそが、実は一番の準備どきです。

    将来に不安を感じたら、どうぞお気軽に当事務所へご相談ください。
    あなたに合った最適な備えを、一緒に考えます。

    行政書士吉村事務所のホームペー

  • 配偶者居住権の落とし穴とは?後悔しないための注意点を行政書士が解説

    配偶者居住権の落とし穴とは?後悔しないための注意点を行政書士が解説

    「配偶者居住権って、夫が亡くなってもこの家に住み続けられる制度なんですよね?」
    相続のご相談を受けていると、このようなご質問をいただくことがよくあります。

    たしかに配偶者居住権は、高齢の配偶者が住み慣れた自宅で安心して暮らし続けられるように、2020年に新しく設けられた制度です。

    とても意義のある制度で、「これがあれば安心」と感じる方も多いでしょう。

    しかし実際には、「良かれと思って選んだのに、後になって困ってしまった」というケースがあるのも事実です。

    制度の特徴や制限を十分に理解しないまま利用すると、思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあります。

    この記事では、相続実務の現場でよく見かける配偶者居住権の注意点・落とし穴について、行政書士の視点からわかりやすく解説します。

    配偶者居住権は「住める」けれど「自由ではない」

    まず、配偶者居住権についてぜひ押さえておいていただきたい大切なポイントがあります。

    配偶者居住権は、あくまで「住むための権利」です。つまり、

    • その家に住み続けることはできる
    • しかし、自分の判断で家を売ることはできない
    • 第三者に貸すことも原則できない

    という性質があります。

    「自分が長年住んできた家なのだから、将来必要になれば売れるはず」
    そう思い込んでいると、ここで大きなギャップに気づくことになります。

    落とし穴① 老人ホームの資金を確保できない

    実際によくあるのが、次のようなケースです。

    「元気なうちは自宅で暮らし、将来は老人ホームに入る予定」
    このように考えている方はとても多いのではないでしょうか。

    その場合、自宅を売却して入居一時金や生活費に充てるという計画を立てていることも少なくありません。

    ところが、配偶者居住権を設定すると、配偶者本人には家を売る権限がありません。家の所有者は、子どもなど別の相続人になるからです。

    結果として、
    「もう住まない家があるのに、売ることができない」
    という身動きの取れない状況に陥ってしまうことがあります。

    落とし穴② 途中でやめると贈与税がかかることも

    「それなら、必要になったときに配偶者居住権を放棄すればいいのでは?」
    そう考える方もいらっしゃるかもしれません。

    しかし、ここにも注意点があります。

    配偶者居住権を存続期間の途中で放棄すると、
    家の所有者に対して“経済的利益を贈与した”とみなされる場合があります。

    その結果、贈与税が課税される可能性が出てくるのです。

    「家族間なのに税金がかかるの?」
    と驚かれる方も多く、後から知ってショックを受けるポイントのひとつです。

    落とし穴③ 家族関係がぎくしゃくすることも

    配偶者居住権は、

    • 配偶者:家に住む権利
    • 子どもなど:家を所有する権利

    というように、権利を分け合う制度です。

    制度設計や話し合いが十分であれば問題ありませんが、現実には、

    • 修繕費は誰が負担するのか
    • 将来この家をどうするのか
    • 空き家になった場合の管理はどうするのか

    といった点で、意見が食い違うことがあります。

    制度そのものは良くても、家族間の合意が不十分だとトラブルの原因になりやすいのが実情です。

    落とし穴④ 「節税になる」という思い込み

    配偶者居住権は、二次相続(配偶者が亡くなった後の相続)で相続税が軽くなる可能性がある制度です。

    ただし、その効果は、

    • 財産の内容
    • 配偶者の年齢
    • 家族構成

    などによって大きく左右されます。

    「節税になると聞いたから」
    という理由だけで選択すると、思ったほど効果が出なかったり、かえって不便を感じたりすることもあります。

    それでも配偶者居住権が向いている方

    ここまで落とし穴をお伝えしましたが、配偶者居住権が「使えない制度」というわけでは決してありません。

    たとえば、次のような方にはとても相性の良い制度です。

    • 最期まで自宅で暮らしたいと考えている
    • 家を売る予定がない
    • 子どもとの関係が良好で話し合いができる
    • 二次相続まで見据えた相続設計をしたい

    このような条件がそろえば、配偶者居住権は大きな安心を与えてくれます。

    まとめ:大切なのは「わが家の場合どうか」

    配偶者居住権は、
    安心をもたらす制度である一方、自由を制限する側面もある制度です。

    「良さそうだから」
    「勧められたから」
    という理由だけで決めるのではなく、

    • 将来の暮らし方
    • お金の使い道
    • 家族との関係

    まで含めて、「わが家の場合どうか」を考えることが何より大切です。

    相続制度は、知っているだけでは十分とは言えません。
    正しく理解し、使い方を間違えないことが重要です。

    この記事が、配偶者居住権について後悔しない選択をするためのヒントになれば幸いです。
    具体的なケースに当てはめて検討したい場合は、専門家に相談することをおすすめします。

    行政書士吉村事務所のホームペー

  • 配偶者居住権とは?夫が亡くなっても自宅に住み続ける制度を行政書士が解説

    配偶者居住権とは?夫が亡くなっても自宅に住み続ける制度を行政書士が解説

    相続の話というと、
    「財産はいくら残るのか」「誰がどれだけもらうのか」
    といったお金の話に目が向きがちです。

    しかし、実際に多くの方が心の奥で不安に感じているのは、こんなことではないでしょうか。

    「もし夫が先に亡くなったら、私はこの家に住み続けられるのだろうか?」

    長年暮らしてきた自宅を離れる不安は、想像以上に大きなものです。


    今日は、そんな不安を和らげてくれる制度である「配偶者居住権」について、行政書士の立場から、できるだけわかりやすく解説します。


    配偶者居住権とは?

    配偶者居住権とは、簡単に言うと、

    配偶者が亡くなったあとも、残された配偶者がその自宅に住み続けられる権利

    のことです。

    2020年(令和2年)の民法改正によって新しく設けられた制度で、
    主に高齢の配偶者の住まいと生活の安定を守ることを目的としています。


    これまでの相続では、何が問題だったのか?

    従来の相続では、自宅については次のような極端にシンプルな扱いしかありませんでした。

    • 家を相続すれば、住み続けられる
    • 家を相続しなければ、住めない

    その結果、次のような悩みが生じるケースが少なくありませんでした。

    • 自宅を相続すると、預貯金など他の財産がほとんどもらえない
    • 生活資金を確保しようとすると、自宅を手放さなければならない

    つまり、
    「住む場所」か「生活資金」か、どちらかをあきらめる
    という選択を迫られることが多かったのです。


    配偶者居住権の最大のポイントは「家の分け方」

    配偶者居住権の最大の特徴は、
    自宅を「2つの権利」に分けて考える点にあります。

    • 配偶者:住み続ける権利(配偶者居住権)
    • 子どもなどの相続人:家の所有権

    このように分けることで、

    • 配偶者は、亡くなるまで安心して自宅に住める
    • 子どもは、将来的に家を取得できる

    という、双方に配慮した相続が可能になります。


    家賃は必要?お金を払わなくても住めるの?

    結論から言うと、原則として家賃は不要です。

    配偶者居住権は無償で認められるため、
    毎月家賃を支払う必要はありません。

    これまでと同じ自宅で、同じ生活を続けられる点は、
    高齢の配偶者にとって非常に大きな安心材料と言えるでしょう。


    どれくらいの期間、住み続けられるの?

    配偶者居住権の存続期間は、次のように定められています。

    • 原則:終身(配偶者が亡くなるまで)
    • 例外:10年、20年など、期間を定めることも可能

    特に期間を決めなければ、
    「亡くなるまで住める権利」として扱われます。


    注意点|自由に使えるわけではありません

    ここで、必ず知っておいていただきたい重要な注意点があります。

    配偶者居住権は、

    • 住むことはできる
    • 売ることはできない
    • 原則として第三者に貸すこともできない

    という性質の権利です。

    あくまで「住むための権利」であり、
    自由に処分できる財産ではありません。

    この点を理解せずに利用すると、
    思わぬトラブルにつながる可能性もあります。


    配偶者居住権は、どんな方に向いている制度?

    配偶者居住権は、特に次のような方に向いています。

    • 高齢で、今さら住み替えは現実的ではない
    • 最期まで今の家で暮らしたい
    • 相続をきっかけに、子どもと揉めたくない

    こうした思いをお持ちの方にとって、
    配偶者居住権は非常に心強い制度です。


    まとめ|配偶者居住権は「暮らし」を守るための制度

    配偶者居住権は、

    「家をもらう制度」ではなく、「住み続ける安心を確保する制度」

    です。

    相続は、単なる財産分けの話ではありません。
    住まいが守られるかどうかは、老後の安心に直結します。

    もし少しでも、
    「うちの場合はどうなるのだろう?」
    と感じた方は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。

    行政書士として、制度の説明だけでなく、
    ご家庭ごとの事情に合わせた相続の考え方をご提案することが可能です。
    どうぞお気軽にご相談ください。

    行政書士吉村事務所のホームペー

  • 改葬許可証の取得手続きと必要書類|行政書士が詳しく解説

    改葬許可証の取得手続きと必要書類|行政書士が詳しく解説

    近年、「お墓の引越し(改葬)」をご希望されるご家庭が増えています。


    遠方の墓地の管理が難しい場合や、跡継ぎがいない場合、または新しい納骨堂へ移したい場合など、 さまざまな理由で改葬手続きを行う必要が生じます。

    しかし、実際に改葬を行う際には、市区町村への行政手続きが必須であり、改葬許可証を取得しなければ改葬は認められません。

    本記事では、改葬許可証の取得に必要な書類・手続きの流れ・注意点について、行政書士が分かりやすく解説します。

    改葬とは?改葬許可証が必要な理由

    改葬とは、埋葬した遺骨を別の墓地・納骨堂へ移動することを指します。


    この改葬(お墓の移転)に際しては法律に基づき、市区町村長の許可を得る必要があります。

    改葬許可証の法的根拠

    項目根拠となる法律内容
    許可の義務墓地、埋葬等に関する法律 第5条第1項改葬を行う者は、市区町村長の許可が必要
    許可証の交付同法 第8条許可時に「改葬許可証」を交付する
    管理者の義務同法 第14条許可証を提示しなければ埋蔵・収蔵できない
    罰則同法 第21条無許可改葬は罰金等の罰則の対象

    改葬許可証がなければ、墓じまいや遺骨の取り出し、移転工事すら進めることができません。


    そのため、事前準備と正確な手続きが非常に重要です。

    改葬許可証を取得するために必要な書類

    改葬許可証の交付には、主に次の3つの書類を準備し、遺骨がある市区町村役場へ提出します。

    ① 改葬許可申請書

    • 自治体へ改葬を申請するための書類
    • 役所窓口または自治体ホームページで入手可能
    • 1体につき1枚記載が原則(自治体により異なる場合あり)
    • 記載内容:死亡者の情報、改葬理由、新しい納骨先、申請者情報など

    ② 受入証明書(改葬受入証明書等)

    • 新しい納骨先が遺骨を受け入れることを証明する書類
    • 新しい墓地・霊園管理者が発行
    • 名称例:受入証明書/永代使用許可証/使用承諾書 等

    ③ 埋葬証明書

    • 現在の墓地に遺骨が納骨されていることの証明
    • 多くの場合、改葬許可申請書内の管理者署名欄で兼用
    • 墓地管理者によっては発行手数料が必要な場合あり

    必要に応じて提出する書類

    • 改葬承諾書…申請者と墓地使用者が異なる場合
    • 委任状…代理申請する場合
    • 戸籍謄本…死亡日と続柄確認が必要な場合

    改葬許可証取得までの具体的な手続きの流れ

    ステップ内容担当
    1新しい納骨先を決定し、受入証明書を取得新しい墓地管理者
    2役所で改葬許可申請書を入手・記入申請者
    3現在の墓地管理者から埋葬証明を取得現墓地管理者
    4必要に応じ承諾書・委任状を準備関係者
    5役所へ書類一式を提出し、改葬許可証を申請市区町村役場

    交付期間と費用の目安

    • 交付期間:3日~1週間程度(自治体・休日による)
    • 費用:無料~300円程度
    • 例:横浜市は手数料無料

    改葬許可証取得後の流れ

    • 現在の墓地管理者へ許可証を提示し、遺骨の取り出し(閉眼供養等)を実施
    • 納骨先で許可証を提出し、埋蔵・収蔵を行う

    改葬手続きは専門家への相談も可能です

    改葬手続きは、ご自身で行うことも可能ですが、
    親族間の合意形成や寺院・霊園との調整、書類作成が必要になるため、思った以上に時間と労力がかかるケースが少なくありません。

    「手続きが不安」「葬祭関係者や寺院との調整をお願いしたい」という場合は、行政書士へご相談いただくことでスムーズに進められます。

    改葬許可証の申請についてお困りの方は、お気軽に当事務所へご相談ください。


    初回相談・お見積りは無料で承っております。

    行政書士吉村事務所のホームペー

  • 家族信託とは?認知症対策に有効な財産管理の新しい方法

    家族信託とは?認知症対策に有効な財産管理の新しい方法

    高齢化が進む中、「親が認知症になったら財産はどうすればいいのか?」というご相談が増えています。

    その解決策として注目されているのが、「家族信託(民事信託)」です。

    本記事では、家族信託の基本的な仕組みや任意後見制度との違い、実際にどのような方に向いているのかを、行政書士の視点からわかりやすく解説します。

    家族信託(民事信託)とは

    家族信託とは、財産を持っている方(委託者)が、ご家族など信頼できる人(受託者)に財産を託し、その財産を委託者自身または別の人(受益者)の利益のために、契約に基づいて管理・運用・処分してもらう制度です。

    2007年の信託法改正によって制度が整備され、「家族による財産管理」が可能になりました。

    たとえば、「将来、父が認知症になったときに自宅を売却して施設費用に充てたい」というようなケースで、家族信託が非常に有効です。

    あらかじめ契約を結んでおくことで、父の判断能力が低下しても、受託者である子どもが裁判所の関与なしに自宅を売却できるようになります。

    家族信託の3つの登場人物

    • 委託者:財産を託す人(通常はご本人)
    • 受託者:財産を託されて管理・運用する人(多くは家族や親族)
    • 受益者:信託財産から利益を受ける人(委託者本人の場合が多い)

    この3者の契約によって信託が成立し、財産の名義は受託者に移ります。

    ただし、あくまで「管理・運用のための名義変更」であり、受託者の個人財産とは分けて扱われます。

    家族信託の主なメリット

    1. 認知症になっても財産管理を続けられる

    家族信託の最大の特長は、委託者の判断能力が低下した後でも、受託者が契約内容に基づいて財産を管理・処分できる点です。

    任意後見制度では、認知症発症後に家庭裁判所の監督人選任が必要ですが、家族信託ではその必要がありません。

    特に不動産の売却が関係する場合、裁判所の手続きや監督人報酬(年間20万円以上の場合も)を省略できるため、スムーズかつ経済的に対応できます。

    2. 財産運用の自由度が高い

    後見制度では「財産の保存・維持」が原則ですが、信託では契約の範囲内で柔軟な管理・運用が可能です。

    たとえば、信託財産を担保に融資を受けたり、信託口座で証券運用を行うこともできます。

    また、「孫へのお年玉」など、本人以外への支出も契約で定めることができるなど、自由度が高いのが魅力です。

    3. 相続対策としても有効

    信託契約では、委託者の死亡後に残った財産(残余財産)を誰に引き継がせるかをあらかじめ指定できます。

    これは遺言と同様の効果を持ち、場合によっては遺言よりも柔軟な多世代承継が可能です。

    たとえば「父 → 母 → 子」へと順番に財産を引き継がせることも、信託なら契約で設定できます。

    任意後見制度との違い

    項目家族信託任意後見契約
    財産の名義受託者名義に変更される本人名義のまま
    裁判所の関与原則なし判断能力低下後に監督人が関与
    財産の利用目的契約内容により柔軟(本人以外にも使える)本人のためのみ
    投資・運用可能(契約次第)原則として不可
    死後の財産指定残余財産の帰属先を指定できる死亡時に契約終了(遺言が必要)
    コスト監督人報酬なし監督人報酬あり(年間約20万円〜)

    家族信託が向いている方

    • 将来的に不動産を売却して施設入居費用などを確保したい方
    • 認知症対策として、家族に財産管理を任せたい方
    • 信頼できる家族・親族が受託者として関われる方
    • 財産の名義変更に抵抗がない方
    • 相続を複数世代にわたって計画的に行いたい方

    家族信託の注意点・デメリット

    家族信託には大きなメリットがある一方で、以下の点には注意が必要です。

    • 判断能力が必要: 信託契約はあくまで契約行為のため、認知症が進行している場合は利用できません。
    • 受託者選びが重要: 受託者には不動産の処分など強い権限があるため、信頼関係が不可欠です。
    • 名義変更への抵抗: 財産の所有名義が受託者に移ることに心理的抵抗を感じる方も多くいます。
    • 全財産を網羅できない: 年金口座など一部の財産は信託できない場合があり、別途遺言書などの併用が必要です。

    まとめ:家族信託は「判断能力があるうち」に始めることが大切

    家族信託は、将来の認知症や相続に備えるための強力な手段です。

    しかし、信託契約を結ぶには本人の判断能力がある段階での準備が欠かせません。

    また、制度設計には専門知識が必要であり、契約内容を誤ると「信託したのに使えない」といったトラブルになることもあります。

    当事務所では、ご家族の状況や財産構成を丁寧にヒアリングし、最適な家族信託スキームの設計をサポートいたします。 「うちは信託を使うべきか?」「任意後見とどちらが良いのか?」といったご相談もお気軽にお寄せください。

    ▶ 家族信託・後見制度のご相談はこちらから

    行政書士吉村事務所のホームペー

  • 成年後見制度とは?制度の種類と注意点をわかりやすく解説

    成年後見制度とは?制度の種類と注意点をわかりやすく解説

    成年後見制度とは?概要と種類をわかりやすく解説

    成年後見制度は、認知症や知的障害、精神障害などによって判断能力が不十分になった方を、 法律的に保護・支援する仕組みです。
    判断能力が低下すると、財産管理や契約手続きが困難となり、不利益を被るおそれがあります。
    ここでは、成年後見制度の概要・種類・利用時の注意点について、わかりやすく解説します。

    1. 成年後見制度の目的と必要性

    判断能力が低下すると、本人の意思確認ができなくなり、家族であっても 預金の引き出しや不動産の売却、入院や施設入所の契約などができません。
    成年後見制度を利用することで、家庭裁判所の監督のもと、 財産や生活を適切に守ることができます。

    2. 成年後見制度の種類

    成年後見制度には大きく分けて、次の二種類があります。

    • 法定後見制度:判断能力が低下した後に利用。家庭裁判所が後見人を選任。
    • 任意後見制度:判断能力があるうちに契約をしておき、将来に備える仕組み。
    制度開始時期後見人の選任権限の範囲取消権
    法定後見判断能力が低下した後家庭裁判所広範囲にわたるあり
    任意後見判断能力があるうち本人が契約(公正証書)契約内容の範囲内なし

    3. 法定後見制度の3つの類型

    法定後見は、本人の判断能力の程度によって以下の3類型に分かれます。

    • 後見:判断能力がほとんどない場合。成年後見人が包括的に代理。
    • 保佐:判断能力が著しく不十分な場合。重要な行為について援助。
    • 補助:判断能力が一部不十分な場合。特定の行為に限り援助。

    4. 後見人の職務とできないこと

    主な職務

    • 財産管理(預貯金、不動産、税金支払いなど)
    • 身上監護(介護サービス利用契約、施設入退所契約など)
    • 家庭裁判所への定期報告

    制限される行為

    • 医療行為への同意(手術や延命治療の可否など)
    • 養子縁組や遺言作成などの身分行為
    • 本人の利益にならない贈与や相続税対策

    5. 成年後見制度の費用

    • 申立費用: 約2万円(申立手数料・郵券代など)。専門家依頼時は別途10万〜30万円程度。
    • 後見人の報酬: 専門職後見人の場合、月2万〜6万円程度(本人の財産から支払う)。

    6. 家族が後見人になる場合の注意点

    • 家庭裁判所の判断で、弁護士など専門職が選任されることが多い。
    • 家族が後見人になると費用は抑えられるが、事務負担が大きい。
    • 一度選任されると辞任は難しく、他の親族の同意も重要。

    7. 成年後見制度以外の選択肢:家族信託

    本人に判断能力があるうちに利用できる制度として「家族信託」があります。
    信頼できる家族に財産管理を託しておくことで、柔軟な資産管理や相続対策が可能です。
    ただし、身上監護(介護や医療契約)はできないため、 任意後見制度と併用して使われることもあります。

    まとめ

    成年後見制度は、判断能力が低下した本人を保護する大切な仕組みですが、 利用にはメリットとデメリットがあります。
    また、法定後見・任意後見・家族信託といった制度はそれぞれ特徴があり、 状況に応じた選択が重要です。
    実際に制度を利用する際は、家庭裁判所の審判や多くの書類準備が必要となるため、 制度の仕組みを正しく理解しておくことが欠かせません。

    行政書士吉村事務所のホームペー

  • 遺産寄付で相続税を抑える条件と手続き

    遺産寄付で相続税を抑える条件と手続き

    非課税とするための条件と手続き

    親の遺産を慈善団体に寄付したいと考えたとき、相続税はどのように扱われるのか──本記事では国税庁の制度を基に「非課税となる具体条件」と「申告手続きの実務ポイント」を整理して解説します。

    結論(要点まとめ)

    遺産寄付の相続税の取り扱いは寄付の方法によって異なります。主に次の2つのケースに分かれます。

    • 遺言で直接寄付(遺贈)する場合:相続人を経由せずに寄付されるため、原則として相続税はかかりません。
    • 相続人が一度相続した後に寄付する場合:原則課税。ただし国税庁の「相続財産を寄附した場合の非課税制度」を満たせば非課税になります。

    1. 遺言に基づく直接寄付(遺贈)のポイント

    遺言で「団体へ遺贈する」旨がある場合、その財産は相続人を経由せずに寄付先へ渡ります。この場合、相続人が財産を取得したとはみなされないため、相続税は基本的に発生しません。

    注意点:譲渡所得税の可能性

    ただし、不動産や上場株式などを遺贈した場合、被相続人の死亡時に譲渡したとみなされるケースがあり、譲渡所得税の問題が生じる可能性があります。事前に税務の専門家に確認してください。

    2. 相続人が受け取ってから寄付する場合(非課税にする4要件)

    相続人が一度財産を取得してから寄付する場合でも、次の要件をすべて満たせば相続税の非課税特例が適用されます。

    非課税特例の4つの要件

    1. 寄付財産が相続や遺贈で取得した「現物」であること
      (例:相続で取得した現金・預金・不動産・株式等そのもの。取得後に売却して得た現金は不可。)
    2. 相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに寄付が完了していること
      (期限を過ぎると特例は適用されません。)
    3. 寄付先が国・地方公共団体・公益法人・認定NPOなど適格な公益団体であること
      (任意団体や一般企業は対象外。寄付先の適格性は事前確認が必須。)
    4. 寄付を証明する書類(受領証や寄付契約書等)を申告書に添付すること
      (申告に必要な明細書の記載・添付がないと適用されません。)

    実務上のポイント

    • 寄付前に寄付先の「公益性(適格性)」を書面で確認しておくと安全です。
    • 相続税申告を税理士に依頼する場合でも、寄付の証明書類は相続人が確実に保管しておきましょう。
    • 株式や土地などの評価方法や時価の算定が問題となることがあります。評価額は相続税申告で重要です。

    3. 国税庁の制度(No.4141)に基づく適用範囲

    国税庁が示す特例では、主に次の寄付パターンが対象となります。

    寄付先の主な分類

    • 国・地方公共団体
    • 特定の公益法人(例:公益社団法人・公益財団法人、学校法人、独立行政法人など)
    • 認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)
    • 特定の公益信託(信託会社を通じて公益信託に組み入れる場合)

    適用除外の例

    以下に該当すると特例の適用が取り消されることがあります。

    • 寄付先が寄付から2年以内に公益性を失った場合
    • 寄付を通じて特定の相続人が不当に利益を受けるなど、不当な税負担の減少が認められる場合

    4. 手続きと必要書類(チェックリスト)

    非課税特例の適用を受けるために必要な手続きと提出書類は次のとおりです。

    必須書類(主なもの)

    • 相続税申告書(特例適用の旨を記載)
    • 寄附した財産の明細書(相続税申告書第14表)
    • 寄付先からの受領証または寄付契約書
    • 寄付先が公益法人等であることを証明する書類(必要に応じて所轄庁の証明)

    手続きの流れ(簡易)

    1. 寄付先の適格性を事前に確認する(書面で保存)
    2. 寄付(相続税申告期限内に完了)
    3. 必要書類を揃えて相続税申告書に添付して提出
    4. 税務署の確認を経て非課税が適用される

    5. よくある質問(FAQ)

    Q1:遺言で寄付するとき、相続人の手続きは必要ですか?

    A:遺言で直接寄付(遺贈)される場合、寄付先へ財産が移転するため、相続人がその財産を受け取ったとはみなされません。ただし相続放棄や遺言の執行など、手続き上の対応が必要になる場合があります。

    Q2:寄付先の「公益性」はどこで確認できますか?

    A:寄付先の法人格や認定状況は、所轄庁の公開情報や寄付先からの公式な証明書で確認します。認定NPOかどうか、公益法人の認定有無などを文書で取得してください。

    Q3:相続開始後に売却して得た現金を寄付したらダメですか?

    A:原則として、相続で取得した財産を現物のまま寄付することが要件です。相続財産を売却して得た現金は非課税特例の対象にならないため注意が必要です。

    まとめとご案内

    遺産寄付における相続税の取り扱いは、寄付の方法・寄付先・申告期限・証明書類の有無によって結果が大きく異なります。正確に非課税を適用するためには、寄付先の適格性の確認・申告期限の厳守・必要書類の整備が不可欠です。実務上の判断や税務評価に関する個別のご相談は、税理士や行政書士・弁護士などの専門家へご相談ください。

    (本稿は国税庁資料に基づく一般的な解説であり、事例により取扱いが異なる場合があります。)

    行政書士吉村事務所のホームペー

  • 公正証書遺言は本当に安全か?―無効とされるケースと対策を解説

    公正証書遺言は本当に安全か?―無効とされるケースと対策を解説

    公正証書遺言でも無効?意思能力と対策を解説

    公正証書遺言は本当に安全か?無効とされる理由と対策

    遺言書は、故人の意思を家族に伝える大切な手段です。特に公正証書遺言は「公証人が関与するため安全」と思われがちですが、実際には無効とされるケースが裁判例で数多く存在します。
    本記事では、公正証書遺言が無効になる理由と、無効を防ぐための対策をわかりやすく解説します。

    公正証書遺言とは?

    遺言書には大きく分けて2種類があります。

    • 自筆証書遺言:本人が自ら全文を書いて作成する。費用がかからない反面、形式不備で無効になるリスクが高い。
    • 公正証書遺言:公証人が関与して作成する。形式面では安全性が高いとされる。

    しかし、公正証書遺言でも「必ず有効」とは限りません。

    公正証書遺言が無効とされる主な理由

    1. 遺言者本人の判断能力の欠如

    民法第963条は「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」と定めています。
    例えば次のような場合には無効と判断される可能性があります。

    • 認知症と診断されていた。
    • 介護記録や証言から「正常な判断ができなかった」と認められた。
    • 遺言内容が不自然で、本人の真意ではないと疑われる。

    2. 公証人による確認不足

    公証人は法律の専門家ですが、確認が十分でない場合もあります。

    • 遺言書を読み上げるだけで、本人の理解を確認していない。
    • 家族や専門家が原案を作成し、本人は署名するだけ。
    • 本人確認が印鑑証明だけで済まされ、意思能力の確認が不十分。

    遺言能力とは?

    遺言能力とは「有効に遺言を行える能力」のことです。本人が遺言の内容を理解し、その結果を予測できる力が求められます。

    関連条文内容
    民法961条15歳に達した者は遺言できる
    民法963条遺言時に能力を有しなければならない

    判断基準としては、医師の診断、認知機能テスト、遺言内容の合理性などが重視されます。

    無効を防ぐための生前対策

    1. 医師の診断書を取得

    遺言作成直後に「意思能力あり」とする診断書を残しておくと有効性を証明しやすくなります。

    2. 遺言能力の証拠を残す

    • 認知機能テストの結果を保存
    • 作成時の様子を動画記録
    • 弁護士など専門家の立会いを依頼

    3. 遺言執行者の指定

    公正証書遺言を作成する際、信頼できる専門家を遺言執行者に指定しておくと安心です。

    死後に無効が疑われた場合

    相続人同士で争いになった場合は、遺言無効確認訴訟を起こすことになります。

    • 裁判ではカルテや介護記録などの客観的証拠が重視される。
    • 第一審だけで1~2年かかることもある。
    • 無効と判断されれば遺産分割協議が必要になる。

    まとめ

    • 公正証書遺言でも無効になることがある。
    • 最大のポイントは「遺言能力(意思能力)」の有無。
    • 診断書や動画記録など、客観的な証拠を残すことが重要。

    相続争いの多くは「一般家庭」で起きています。大切な家族のために、早めに法的に有効な遺言を準備しておくことがトラブル防止につながります。

    ご不明な点がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

    行政書士吉村事務所のホームペー

  • 包括遺贈と特定遺贈の違い|判例で解説

    包括遺贈と特定遺贈の違い|判例で解説

    東京地裁平成10年6月26日判決の概要

    この事件では、遺言者が亡くなる前に遺言を残し、妹には特定の不動産を、法人Bにはそれ以外の不動産や書籍・手紙などを贈与する旨を記していました。

    しかし、税務署は法人Bへの遺贈を包括遺贈と判断し、所得税約1億2,000万円の支払い義務を課しました。

    これに対し、法人Bは「特定遺贈である」と主張し裁判を起こしました。

    用語の解説|包括遺贈と特定遺贈

    遺贈とは?

    遺言によって財産を特定の人に与えることを「遺贈」といいます。

    包括遺贈とは?

    民法964条に定められており、「財産の全部」や「〇分の〇」といった割合で遺贈する形式です。相続人に近い立場となり、借金や税金などの義務も引き継ぎます。

    特定遺贈とは?

    「この不動産」や「この預金」など、特定の財産を指定して渡す遺贈です。原則として義務(負債や税金)は引き継ぎません。

    裁判所の判断|包括遺贈と認定された理由

    裁判所は、法人Bへの遺贈を包括遺贈と判断しました。

    遺言内容が「妹に特定の不動産、それ以外すべてを法人Bに渡す」としていたため、包括的な贈与と見なされました。

    学習館の書籍や手紙なども含まれており、遺言者の強い意志が表れていたことも判断材料とされました。

    重要な判例ポイント3つ

    ① 割合が書かれていなくても包括遺贈にあたる

    この判決では、「割合」が書かれていなくても、遺贈の内容が包括的であれば包括遺贈と認められるとしています。

    ② 「すべてを渡す」という文言に注意

    特定の財産を除いた「その他すべて」を渡す表現は、包括遺贈と解釈される可能性があります。特に、動産・不動産を広く含む場合は要注意です。

    ③ 包括遺贈には税金などの義務も伴う

    包括遺贈と判断されると、受遺者(ここでは法人B)は遺言者の所得税などの支払い義務も引き継ぐことになります。

    まとめ|包括遺贈と特定遺贈の違いと実務への影響

    観点内容
    遺贈の種類包括遺贈と特定遺贈に分かれる
    包括遺贈財産全体や割合で承継(義務含む)
    特定遺贈特定の財産のみ(原則、義務なし)
    本件の争点法人Bへの遺贈がどちらか
    判決の考え方割合の記載がなくても包括的なら包括遺贈
    実務上の影響表現次第で大きく税負担が変わる

    おわりに|実務上も重要な判例

    本判例は、遺言の表現方法によって受遺者の負担が大きく変わるという、実務上非常に重要な示唆を含んでいます。包括遺贈と特定遺贈の区別を学ぶうえで、非常に有用な事例といえるでしょう。

    東京地判平成10年6月26日(判時1668号49頁)

  • 包括遺贈と特定遺贈の違いと裁判例解説

    包括遺贈と特定遺贈の違いと裁判例解説

    初学者にも理解しやすいように、「包括遺贈」と「特定遺贈」の違い、そしてそれが争われた裁判例について、できるだけ平易な言葉で丁寧に解説していきます。

    遺贈とは?

    「遺贈」とは、亡くなった人(被相続人)が遺言によって、自分の財産を誰かに与えることをいいます。

    遺贈には、大きく分けて以下の2種類があります:

    包括遺贈(ほうかついぞう)

    財産の全体、または一定の割合(例:2分の1など)を与える遺贈のことです。

    例:「私の財産の全部をAに遺贈する」「私の財産の3分の1をBに遺贈する」

    特定遺贈(とくていいぞう)

    「この土地」「この家」など、特定の財産を指定して与える遺贈です。

    例:「〇〇市の土地をCに遺贈する」

    この裁判の概要

    被相続人が次のような遺言を残しました:

    「遺産の全部をA、B、Cに贈与する。寺と地所、家はCがとる。Cを遺言執行者とする。」

    ここで問題となったのは以下の2点です:

    • この遺言は包括遺贈か?特定遺贈か?
    • 不動産取得税がかかるのか?

    不動産取得税がかかるかどうか

    地方税法第73条の7では、次のように定められています:

    「相続(包括遺贈や相続人への遺贈)による取得には、不動産取得税を課さない」

    つまり、不動産取得税を免除してもらうには、以下のいずれかである必要があります:

    • 包括遺贈であること
    • 相続人に対する遺贈であること

    原審(地裁)の判断:包括遺贈で税金不要

    地裁の判断は以下の通りです:

    • 「遺産の全部をA・B・Cに贈与」とあるため、包括遺贈である
    • 「家はCがとる」は、配分の詳細を示したにすぎない

    → よって、Cは包括受遺者であり、不動産取得税はかからないと判断されました。

    控訴審(高裁)の判断:特定遺贈で課税対象

    一方、控訴審(東京高裁)は次のように判断しました:

    • 「家はCがとる」という記載は、Cに対する特定の財産の遺贈と解釈できる(特定遺贈)
    • 包括受遺者に対して特定遺贈をすることも可能である

    ただし、最初の文(遺産の全部を…)については包括遺贈かどうかの判断を明確にしていません。

    この裁判例の意義と論点整理

    1. 包括遺贈か?特定遺贈か?

    包括遺贈は通常「割合」で示すとされますが、原審は「全部を与える」との意思があれば割合明示がなくても包括遺贈と認めました。

    2. 包括受遺者への特定遺贈は可能か?

    控訴審は「可能」と認定し、そのうえで「家」は特定遺贈と判断しました。

    3. 不動産取得税の取り扱い

    不動産取得税が免除されるのは:

    • 相続(包括遺贈を含む)による取得
    • 相続人への特定遺贈

    → では「包括受遺者に対する特定遺贈」はどうなるのか?明確にはされていません。

    裁判例:
    原審:横浜地裁 平成10年1月28日(未登載)
    控訴審:東京高裁 平成10年9月10日(判タ1071号172頁)

    まとめ

    ポイント内容
    包括遺贈遺産の「全部」や「割合」で与える。相続に近い。税金は原則不要。
    特定遺贈特定の財産(家や土地など)を与える。原則として税金がかかる。
    争点「全部あげる」と記載していても、解釈によって包括遺贈か特定遺贈かが争点に。
    裁判結果地裁は包括遺贈と認定、高裁は特定遺贈と判断。見解が分かれた。