包括遺贈と特定遺贈の違い|判例で解説

東京地裁平成10年6月26日判決の概要

この事件では、遺言者が亡くなる前に遺言を残し、妹には特定の不動産を、法人Bにはそれ以外の不動産や書籍・手紙などを贈与する旨を記していました。

しかし、税務署は法人Bへの遺贈を包括遺贈と判断し、所得税約1億2,000万円の支払い義務を課しました。

これに対し、法人Bは「特定遺贈である」と主張し裁判を起こしました。

用語の解説|包括遺贈と特定遺贈

遺贈とは?

遺言によって財産を特定の人に与えることを「遺贈」といいます。

包括遺贈とは?

民法964条に定められており、「財産の全部」や「〇分の〇」といった割合で遺贈する形式です。相続人に近い立場となり、借金や税金などの義務も引き継ぎます。

特定遺贈とは?

「この不動産」や「この預金」など、特定の財産を指定して渡す遺贈です。原則として義務(負債や税金)は引き継ぎません。

裁判所の判断|包括遺贈と認定された理由

裁判所は、法人Bへの遺贈を包括遺贈と判断しました。

遺言内容が「妹に特定の不動産、それ以外すべてを法人Bに渡す」としていたため、包括的な贈与と見なされました。

学習館の書籍や手紙なども含まれており、遺言者の強い意志が表れていたことも判断材料とされました。

重要な判例ポイント3つ

① 割合が書かれていなくても包括遺贈にあたる

この判決では、「割合」が書かれていなくても、遺贈の内容が包括的であれば包括遺贈と認められるとしています。

② 「すべてを渡す」という文言に注意

特定の財産を除いた「その他すべて」を渡す表現は、包括遺贈と解釈される可能性があります。特に、動産・不動産を広く含む場合は要注意です。

③ 包括遺贈には税金などの義務も伴う

包括遺贈と判断されると、受遺者(ここでは法人B)は遺言者の所得税などの支払い義務も引き継ぐことになります。

まとめ|包括遺贈と特定遺贈の違いと実務への影響

観点内容
遺贈の種類包括遺贈と特定遺贈に分かれる
包括遺贈財産全体や割合で承継(義務含む)
特定遺贈特定の財産のみ(原則、義務なし)
本件の争点法人Bへの遺贈がどちらか
判決の考え方割合の記載がなくても包括的なら包括遺贈
実務上の影響表現次第で大きく税負担が変わる

おわりに|実務上も重要な判例

本判例は、遺言の表現方法によって受遺者の負担が大きく変わるという、実務上非常に重要な示唆を含んでいます。包括遺贈と特定遺贈の区別を学ぶうえで、非常に有用な事例といえるでしょう。

東京地判平成10年6月26日(判時1668号49頁)