包括遺贈と特定遺贈の違いと裁判例解説

初学者にも理解しやすいように、「包括遺贈」と「特定遺贈」の違い、そしてそれが争われた裁判例について、できるだけ平易な言葉で丁寧に解説していきます。

遺贈とは?

「遺贈」とは、亡くなった人(被相続人)が遺言によって、自分の財産を誰かに与えることをいいます。

遺贈には、大きく分けて以下の2種類があります:

包括遺贈(ほうかついぞう)

財産の全体、または一定の割合(例:2分の1など)を与える遺贈のことです。

例:「私の財産の全部をAに遺贈する」「私の財産の3分の1をBに遺贈する」

特定遺贈(とくていいぞう)

「この土地」「この家」など、特定の財産を指定して与える遺贈です。

例:「〇〇市の土地をCに遺贈する」

この裁判の概要

被相続人が次のような遺言を残しました:

「遺産の全部をA、B、Cに贈与する。寺と地所、家はCがとる。Cを遺言執行者とする。」

ここで問題となったのは以下の2点です:

  • この遺言は包括遺贈か?特定遺贈か?
  • 不動産取得税がかかるのか?

不動産取得税がかかるかどうか

地方税法第73条の7では、次のように定められています:

「相続(包括遺贈や相続人への遺贈)による取得には、不動産取得税を課さない」

つまり、不動産取得税を免除してもらうには、以下のいずれかである必要があります:

  • 包括遺贈であること
  • 相続人に対する遺贈であること

原審(地裁)の判断:包括遺贈で税金不要

地裁の判断は以下の通りです:

  • 「遺産の全部をA・B・Cに贈与」とあるため、包括遺贈である
  • 「家はCがとる」は、配分の詳細を示したにすぎない

→ よって、Cは包括受遺者であり、不動産取得税はかからないと判断されました。

控訴審(高裁)の判断:特定遺贈で課税対象

一方、控訴審(東京高裁)は次のように判断しました:

  • 「家はCがとる」という記載は、Cに対する特定の財産の遺贈と解釈できる(特定遺贈)
  • 包括受遺者に対して特定遺贈をすることも可能である

ただし、最初の文(遺産の全部を…)については包括遺贈かどうかの判断を明確にしていません。

この裁判例の意義と論点整理

1. 包括遺贈か?特定遺贈か?

包括遺贈は通常「割合」で示すとされますが、原審は「全部を与える」との意思があれば割合明示がなくても包括遺贈と認めました。

2. 包括受遺者への特定遺贈は可能か?

控訴審は「可能」と認定し、そのうえで「家」は特定遺贈と判断しました。

3. 不動産取得税の取り扱い

不動産取得税が免除されるのは:

  • 相続(包括遺贈を含む)による取得
  • 相続人への特定遺贈

→ では「包括受遺者に対する特定遺贈」はどうなるのか?明確にはされていません。

裁判例:
原審:横浜地裁 平成10年1月28日(未登載)
控訴審:東京高裁 平成10年9月10日(判タ1071号172頁)

まとめ

ポイント内容
包括遺贈遺産の「全部」や「割合」で与える。相続に近い。税金は原則不要。
特定遺贈特定の財産(家や土地など)を与える。原則として税金がかかる。
争点「全部あげる」と記載していても、解釈によって包括遺贈か特定遺贈かが争点に。
裁判結果地裁は包括遺贈と認定、高裁は特定遺贈と判断。見解が分かれた。