遺言の内容を考えるうえで、「包括遺贈」と「特定遺贈」という言葉を耳にすることがあります。これらはどちらも遺言によって財産を人に渡す方法ですが、法的な意味や取り扱いに大きな違いがあります。
ここでは、民法の条文に基づきながら、実務上も重要なポイントを整理し、初めての方でも理解しやすいように説明します。
包括遺贈と特定遺贈の違い
包括遺贈:たとえば「財産の3分の1を○○さんに遺贈する」といったように、全体の割合で指定されるものです。民法第990条では「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する」と定められています。
特定遺贈:たとえば「○○市の土地を△△さんに渡す」というように、特定の財産を指定して行うものです。
この違いにより、法律上や税務上での取り扱いにも差が生じます。
遺贈を放棄する際の手続きの違い
包括遺贈の場合
贈与の事実を知ってから3か月以内に、家庭裁判所に「放棄の申述」をしなければなりません(相続放棄と同様の手続き)。一部放棄はできず、全体を受け取るか放棄するかの選択となります。
特定遺贈の場合
放棄はいつでも可能で、家庭裁判所の手続きも不要です。部分的な放棄も可能です。
借金や負債の扱い
包括遺贈では、遺産の中に借金などのマイナスの財産があれば、それも一定割合で引き継ぐ可能性があります。一方、特定遺贈では指定された財産のみを受け取るため、借金を負うことはありません。
ただし、形式上は特定遺贈でも実質的に包括遺贈と判断される場合、放棄期限を過ぎると負債を引き継ぐおそれがあります。
農地を遺贈する場合の注意点
農地を遺贈する場合、農地法の規制に注意が必要です。
- 包括遺贈の場合:農業委員会の許可は不要
- 特定遺贈の場合:原則として許可が必要。許可が下りないと無効
不動産取得税の違い
不動産の遺贈により発生する税金にも違いがあります。
- 包括遺贈:原則として非課税(法定相続人への遺贈含む)
- 特定遺贈:課税対象(固定資産評価額の約4%)
形式の違いが税務署の判断に影響することもあります。
換価遺言と譲渡所得税
「不動産を売却して現金を渡す」といった遺言は「換価遺言」と呼ばれます。この場合、不動産の売却は相続人が行うため、譲渡所得税は相続人が負担することになります。
換価金をもらえない相続人が税だけを負担するという事態も生じ得るため、遺言作成時には慎重な検討が必要です。
包括遺贈と特定遺贈の比較表
比較項目 | 包括遺贈 | 特定遺贈 |
---|---|---|
内容 | 遺産全体の一定割合など | 指定された特定の財産 |
放棄の手続き | 家庭裁判所に3か月以内の申述が必要 | いつでも可能。家庭裁判所の手続き不要 |
一部放棄 | 不可(すべて放棄か受け取りか) | 可能(不要な物のみ放棄できる) |
借金の引継ぎ | あり(相続人と同様) | なし(プラスの財産のみ) |
農地の承継許可 | 不要 | 必要 |
不動産取得税 | 非課税 | 課税される(評価額の約4%) |
換価遺言の税負担 | 相続人が譲渡所得税を負担 | ― |
まとめと注意点
包括遺贈と特定遺贈は、見た目には似ていても法律的な効果や手続き、税金の取り扱いに大きな違いがあります。
遺言を作成する側も、受け取る側も、それぞれの違いを正しく理解したうえで判断することが重要です。
不明点があれば、民法の条文に即した解説もいたします。行政書士として、正確な理解をお手伝いします。
※本記事は一般的な解説であり、特定の法律相談を目的としたものではありません。具体的な案件については、専門家にご相談ください。
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