はじめに:なぜ「遺贈」が注目されているのか?
近年、「遺贈(いぞう)」という言葉を耳にする機会が増えています。背景には、高齢化や単身世帯の増加など、家族構成の変化があります。
たとえば、法定相続人がいない方が亡くなった場合、その方の財産は最終的に国に引き取られる(これを「国庫に帰属」といいます)ことになります。実際、2019年度には全国で約603億円もの財産が国庫に帰属しました。
これは、必ずしも故人の望んだ形ではなかったかもしれません。そんなときに活用できるのが「遺言による遺贈」です。遺贈を使えば、家族以外のお世話になった方や団体(NPO法人・病院・施設など)に自分の財産を託すことができます。
民法964条:遺贈には2つのタイプがある
民法第964条では、遺贈について次のように規定されています。
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
この条文にあるように、遺贈には以下の2つの形式があります。
- 包括遺贈(ほうかついぞう)
- 特定遺贈(とくていいぞう)
包括遺贈とは?
内容
財産の全部や割合を指定して贈る方法です。
例:「私の全財産をAに遺贈する。」
特徴
- 遺産の割合(例:「2分の1」)を指定する場合にも使われます。
- プラスの財産だけでなく、借金などマイナスの財産も引き継ぐ可能性があります。
- 相続人に近い立場となり、遺言執行者がいなくても一部手続きが可能です。
メリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
財産を包括的に一括で託せる | 借金も一緒に引き継ぐ可能性がある |
特定遺贈とは?
内容
特定の財産を指定して贈る方法です。
例:「〇〇銀行の預金1000万円をBに遺贈する。」
特徴
- 土地・建物・預金など、具体的な財産を対象にしています。
- 借金などのマイナスの財産は原則として引き継がれません。
- 不動産などを遺贈する場合、遺言執行者が必要なケースが多くなります。
メリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
借金を引き継がなくてよい | 手続きが複雑になりやすい(遺言執行者が必要) |
注意点:包括遺贈と特定遺贈を曖昧にすると?
たとえば、「財産の一部をAに贈る」とだけ書いてしまうと、それが「割合」の意味なのか「特定の財産」なのかで、受け取る側や遺族の間で解釈が分かれてしまう可能性があります。
また、包括遺贈だと認識せずに財産を受け取ったら、思わぬ借金がついていた…というケースも実際にあります。
こうしたトラブルを防ぐためにも、遺言の記載はできるだけ具体的かつ明確にしておくことが重要です。
まとめ:安心して遺贈するために
- 「包括遺贈」か「特定遺贈」かをはっきり書く
- 「割合」なのか「具体的な財産」なのかを明示する
- 不安があれば法律の専門家に相談する(弁護士・行政書士など)
【文例】
包括遺贈の文例:
「私のすべての財産を、Aに包括的に遺贈する。」
特定遺贈の文例:
「私が所有する〇〇銀行の預金(口座番号:XXXX)を、Bに遺贈する。」
最後に
「遺贈」は、ご自身の思いを最も確実なかたちで後世に伝える手段の一つです。しっかりと仕組みを理解し、正確な表現で遺言書を作成することが、望んだ相手に確実に財産を届ける第一歩となります。
ご不明な点がある場合は、専門家へご相談ください。丁寧に、わかりやすくサポートいたします。
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