遺言執行者の役割
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う者を指します。法律上の正式な呼称は「遺言執行者」ですが、「遺言執行人」と呼ばれることもあります。
遺言は、遺言者の死後にその内容が実現されるものです。遺言執行者が指定されている場合、遺言の内容が適正かつ迅速に実行されることが期待されます。
本記事では、遺言執行者の必要性や法的根拠、具体的な任務について詳しく解説します。
遺言執行者を指定するメリット
遺言執行者を指定することは必須ではありませんが、以下のようなメリットがあります。
遺言内容の確実な実現 遺言執行者は遺言者の代理人として、相続財産の管理や遺言の執行に必要なあらゆる行為を行う権限を持ちます。
相続人による妨害の防止 遺言執行者が指定されている場合、相続人は相続財産の処分や遺言執行を妨げる行為をすることができません(民法第1013条)。
第1013条は、遺言執行者がいるときに、相続人が勝手に遺産を動かしてはいけないというルールを定めています。
遺言執行者とは、亡くなった人の遺言の内容を実際に実行する人のことです。たとえば「Aにこの家を相続させる」と遺言に書いてあった場合、遺言執行者はその手続きを進めます。このとき、相続人が勝手にその家を売ったり、処分したりすることはできません。もし相続人が遺言の内容に反する行動をとってしまうと、亡くなった人の意思が守られなくなってしまうからです。
この条文の目的は、遺言者の最後の意思をきちんと実現させるために、遺言執行者にスムーズに仕事をしてもらうことにあります。つまり、相続人の自由な行動よりも、遺言の実現を優先させているのです。
遺言執行者が指定されていない場合、遺言の実現は相続人全員の協議に委ねられます。しかし、相続人間の意見が対立すると協議が不調になり、遺言の実現が遅れることがあります。遺言執行者がいることで、このようなリスクを軽減できます。
遺言執行者の指定が必要なケース
以下のような内容を含む遺言の場合、遺言執行者の指定が必須となります。
子の認知
推定相続人の廃除
一般財団法人の設立
【民法における遺言執行者の重要な役割(民法1014条・1015条ほか)】
遺言によって自分の死後の意思を実現するには、「遺言執行者」が必要になる場面があります。たとえば、亡くなった方が「私の子を認知する」と遺言に書いていた場合(民法781条2項)、遺言執行者が戸籍法の定めに従い、市区町村へ届出をして初めて、認知が法的に成立します。本人が死亡している以上、自分で届出はできませんから、遺言執行者が代わりに行うのです。
また、「この相続人には財産を渡したくない」として相続人の廃除を希望する遺言(民法893条)も、ただ書いただけでは効力は生じません。遺言執行者が家庭裁判所に対して正式に廃除を請求する必要があります(民法894条2項)。
さらに、遺言によって「一般財団法人を設立したい」という意思が示された場合も、その法人設立のための諸手続きを、遺言執行者が担うことになります(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律152条)。
このように、遺言執行者は単に遺産を分けるだけでなく、遺言内容の実現に深く関わる法的な責任者です。民法1012条以下に規定されており、相続実務において極めて重要な役割を果たします。
遺言執行者の法的根拠
遺言執行者に関する規定は民法に定められています。
第1015条は、「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」の行為がどのように相続人に影響を与えるかを定めています。遺言執行者とは、亡くなった人(被相続人)の遺言の内容を実際に実行する人のことです。たとえば、「Aに財産を渡せ」と遺言があれば、それを実際に渡すのが遺言執行者の仕事です。
この条文では、遺言執行者がその「権限の範囲内」で、「自分は遺言執行者ですよ」と示して行動した場合、その結果は相続人に直接効力があるとされています。つまり、遺言執行者が適切に手続きをすれば、相続人の許可を得なくても、その行為は法的に有効であり、相続人がそれを受け入れる義務があるということです。
この仕組みにより、遺言の内容がスムーズに実現できるようになっています。
第1016条は、「遺言執行者」が他の人に仕事を任せることができるか、ということを定めています。遺言執行者とは、亡くなった人(遺言者)の遺言の内容を実現する人のことです。この条文では、遺言執行者が自分の責任のもとで第三者に仕事を任せること(再委任といいます)が認められています。ただし、遺言の中で「自分でやってほしい」といった特別な意思が書かれている場合は、その内容が優先されます。さらに、やむを得ない理由があって第三者に任せたときには、その選び方や監督の仕方について、相続人に対して責任を負う、ということになります。つまり、遺言執行者が誰かに任せる場合でも、全く無責任ではいけませんよ、というルールです。
遺言執行者の具体的な任務
民法では、遺言の内容を実現するために「遺言執行者」という役割があります。これは、亡くなった人の意思をきちんと実現するために必要な仕事を、一定のルールに従って行う人のことです。主な流れは以下のとおりです。
就任の通知(民法1007条)
遺言執行者になった人は、まず相続人に「自分が遺言執行者として就任したこと」を知らせます。
相続人の調査
被相続人(亡くなった人)の戸籍を出生から死亡まで集めて、誰が法定相続人なのかを確認します。
財産目録の作成(民法1011条)
遺産の内容(不動産、預貯金、株など)を調べて一覧表にし、それを相続人に渡します。この段階で、相続人の同意があれば家庭裁判所の許可なく目録を作成できます。
遺言の執行(民法1012条)
遺言に書かれている内容を具体的に実行します。たとえば、特定の人に不動産を渡すために名義変更をしたり、預金を払い戻したりします。
遺産の引渡しと業務完了の通知
遺産を受遺者や相続人に引き渡し、すべての業務が終わったら、完了したことを関係者に知らせて終了です。
遺言執行者に関するその他の規定
民法第1017条は、「遺言執行者(いごんしっこうしゃ)」が複数いる場合のルールを定めています。遺言執行者とは、遺言に書かれた内容を実際に実行する人のことです。たとえば、「Aに財産をあげる」と書いてあれば、その財産をAに渡す手続きをするのが遺言執行者の役割です。
この条文では、遺言執行者が2人以上いるとき、何かを決める必要がある場合は「過半数(半分より多い数)」の賛成で決めてよい、とされています。全員の同意が必要ではないという点がポイントです。ただし、遺言を書いた人(遺言者)が、「この遺言は全員一致で進めてほしい」などと特別な指示をしていた場合は、その指示が優先されます。
つまり、基本的にはスムーズに遺言を実行できるように、過半数で物事を決められる仕組みですが、遺言者の意志があればそれを尊重する、という柔軟なルールになっています。
民法第1019条は、遺言執行者の「解任」と「辞任」について定めた条文です。遺言執行者とは、亡くなった人(被相続人)の遺言を実現するために選ばれた人のことです。この人がきちんと仕事をしなかったり、何らかの正当な理由(たとえば病気など)がある場合には、相続人などの関係者は、家庭裁判所に対してその人を辞めさせてほしいと請求することができます(これが「解任」)。また、遺言執行者自身も、正当な理由があるときは、家庭裁判所の許可をもらって自分から辞めることもできます(これが「辞任」)。つまりこの条文は、遺言執行者に問題があったときや続けられない事情があるときに、柔軟に対応できるようにして、円滑に遺言が実行されることを目的としています。
報酬と費用の支払い
第1018条は、遺言執行者の報酬に関する規定です。遺言執行者とは、遺言で指名された人が遺産の分け方を実行する役割を担いますが、その仕事に対する報酬の取り決めについて述べています。
まず、家庭裁判所が「相続財産の状況やその他の事情」を考慮して、遺言執行者の報酬を決めることができるということです。これにより、遺産の額や執行者が行う仕事の内容に応じて、報酬の額が調整されることがあります。例えば、遺産が多い場合や、複雑な手続きが必要な場合には、報酬が高くなる可能性があります。
一方で、「遺言者が遺言で報酬を定めた場合は、この限りでない」とも書かれています。つまり、遺言者が遺言で具体的に報酬の額を決めていれば、家庭裁判所が報酬を決める必要はなく、その遺言に従うことになります。
このように、この条文は遺言執行者の報酬を柔軟に調整できることを意味しており、遺言者の意思を尊重することが大切であることを示しています。
第1021条は、遺言の執行にかかる費用について規定しています。遺言の執行とは、故人の遺志に基づいて財産を分けるための手続きや、遺言書の内容を実現するための行為を指します。この執行には、弁護士や行政書士に依頼する費用、手数料などが含まれます。
この条文では、その執行費用が誰の負担になるかについて説明しています。基本的には、相続財産がその費用を負担します。つまり、遺言執行に必要な費用は、故人の遺産から支払われることになります。
ただし、「遺留分を減ずることができない」とあります。遺留分とは、法定相続人が最低限相続できる財産の割合です。たとえば、子どもがいる場合、その子どもには一定の財産を遺言にかかわらず受け取る権利があります。遺言の執行にかかる費用が遺留分を減らしてしまうことがないように、配慮されています。つまり、相続人が遺留分を失わない範囲で費用が支払われるようになっているわけです。
この条文は、遺言執行に関する公平性を保ち、相続人の権利を守るための重要な規定です。
まとめ
遺言執行者は、遺言の内容を円滑に実現するために重要な役割を果たします。
• 遺言執行者の指定は必須ではないが、指定することで相続手続きが円滑になる。
• 子の認知、推定相続人の廃除、一般財団法人の設立の場合は遺言執行者の指定が必須。
• 遺言執行者は法律に基づく権限を持ち、遺言の執行に必要な手続きを行う。
• 遺言執行者の任務には、就任通知、相続人の調査、財産目録の作成、遺産分割の実施などが含まれる。
遺言の確実な実現を望む場合は、専門家(弁護士・行政書士など)を遺言執行者に指定することを検討すると良いでしょう。
ご相談は専門家へ 遺言の作成や執行に関するご相談は、ぜひ専門家へご相談ください。適切なアドバイスを受けることで、安心して遺言を準備することができます。
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