2026年(令和8年)1月1日、日本の企業間取引における支払い慣行が大きな転換点を迎えます。
同日施行される「中小受託取引適正化法(通称:取適法)」により、これまで広く使われてきた手形払いが、実務上ほぼ不可能となるためです。
特に注目すべきなのが、「納品・役務提供完了から60日以内に、全額を現金で支払う義務」です。
本記事では、取適法の中でも影響が大きいこの支払いルールに焦点を当て、企業が直面する実務上の変化と、今から準備すべき対応策を行政書士の視点でわかりやすく解説します。
1.「60日以内・全額現金化」が意味するものとは
取適法では、委託事業者(発注側)に対し、次のような支払いを義務付けています。
「納品または役務提供の完了日から60日以内に、手数料などを差し引かれることなく、全額を現金で受け取れる支払い」
これは単に「支払期限を守りましょう」という話ではありません。 支払い方法そのものが厳しく制限される点が、今回の法改正の最大の特徴です。
事実上、禁止される支払い方法
- 手形払い
支払期日が長い手形は、60日以内に現金化できないため原則不可となります。 - 電子記録債権(でんさい)
手形と同様、期日まで満額を受け取れない仕組みは認められません。 - 割引料を伴うファクタリング
受託者側が割引料(手数料)を負担して早期現金化する方式は、「全額現金化」に反するため禁止対象となります。
これまで「支払いは手形が当たり前」と考えてきた企業にとっては、資金繰り(キャッシュフロー)の抜本的な見直しが避けられません。
2.なぜ今、ここまで厳しいルールが導入されるのか
今回の取適法は、単なる下請保護を目的とした法律ではありません。 背景にあるのは、「対等なパートナーとしての企業間取引を実現する」という考え方です。
従来の下請法では、立場の強い発注側が支払いを遅らせたり、事実上の金利負担を下請事業者に押し付けたりするケースが後を絶ちませんでした。
そこで新法では、納品から2か月以内に、確実に・満額の現金を受け取れる環境を制度として整備し、中小事業者が安心して事業を継続できる基盤づくりを目指しています。
つまり、取適法は「企業間取引の公正化」を本気で実現するための法律なのです。
3.支払いルール以外にも広がる実務への影響
取適法の影響は、支払い方法の変更だけにとどまりません。 企業実務全体を見直す必要があります。
① 価格交渉における説明責任の明確化
原材料費や人件費の高騰などを理由に、受託者が価格協議を求めた場合、 発注側は理由を説明せずに価格据え置きを強要したり、協議自体を拒否することが禁止されます。
② 適用対象の拡大
- 従来の資本金基準に加え、従業員数基準が新たに導入
- 荷主が運送事業者に直接依頼する「特定運送委託」も新たに規制対象
「うちは下請法の対象外だったから大丈夫」という認識は、通用しなくなる可能性があります。
③ 監視・執行体制の強化
公正取引委員会に加え、各業界の主務大臣にも指導・助言権限が付与され、 違反に対するチェック体制はこれまで以上に厳しくなります。
4.施行までに企業が取り組むべき3つの実務ステップ
2026年1月の施行に向け、委託事業者(発注側)は早めの対応が不可欠です。
① 資金管理体制の再構築
手形払いから現金払いへ移行した場合のキャッシュフローをシミュレーションし、 必要に応じて資金調達方法の見直しを行いましょう。
② 契約書・社内規程の改定
法律名の変更に合わせ、以下の点を確認・修正する必要があります。
- 手形払い条項の削除
- 支払期限・支払方法の明確化
- 価格協議に関する条項の追加
契約書の未整備は、トラブルや行政指導の原因になりかねません。
③ 社内意識と運用の見直し
口頭発注を改め、書面や電子データで交渉記録を残す体制を整えましょう。 また、振込手数料を受託者に負担させている場合は、将来的な規制も見据えた見直しが必要です。
資金が巡る健全な取引関係へ
取適法による「現金化の迅速化」は、ビジネスにおける血液(資金)の流れを正常化するための制度改革といえます。
手形という「後回しの約束」ではなく、現金という「確かな対価」を速やかに循環させることは、 サプライチェーン全体の体力を高め、結果的に発注側企業の信用力向上にもつながります。
2026年1月は、古い商慣習から脱却し、公正な取引を実現する新しいスタートラインです。 「まだ先の話」ではなく、「今から準備する」ことが、企業を守る最大のポイントとなります。
取適法対応や契約書整備でお悩みの際は、行政書士へ早めにご相談ください。
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