「配偶者居住権って、夫が亡くなってもこの家に住み続けられる制度なんですよね?」
相続のご相談を受けていると、このようなご質問をいただくことがよくあります。
たしかに配偶者居住権は、高齢の配偶者が住み慣れた自宅で安心して暮らし続けられるように、2020年に新しく設けられた制度です。
とても意義のある制度で、「これがあれば安心」と感じる方も多いでしょう。
しかし実際には、「良かれと思って選んだのに、後になって困ってしまった」というケースがあるのも事実です。
制度の特徴や制限を十分に理解しないまま利用すると、思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあります。
この記事では、相続実務の現場でよく見かける配偶者居住権の注意点・落とし穴について、行政書士の視点からわかりやすく解説します。
配偶者居住権は「住める」けれど「自由ではない」
まず、配偶者居住権についてぜひ押さえておいていただきたい大切なポイントがあります。
配偶者居住権は、あくまで「住むための権利」です。つまり、
- その家に住み続けることはできる
- しかし、自分の判断で家を売ることはできない
- 第三者に貸すことも原則できない
という性質があります。
「自分が長年住んできた家なのだから、将来必要になれば売れるはず」
そう思い込んでいると、ここで大きなギャップに気づくことになります。
落とし穴① 老人ホームの資金を確保できない
実際によくあるのが、次のようなケースです。
「元気なうちは自宅で暮らし、将来は老人ホームに入る予定」
このように考えている方はとても多いのではないでしょうか。
その場合、自宅を売却して入居一時金や生活費に充てるという計画を立てていることも少なくありません。
ところが、配偶者居住権を設定すると、配偶者本人には家を売る権限がありません。家の所有者は、子どもなど別の相続人になるからです。
結果として、
「もう住まない家があるのに、売ることができない」
という身動きの取れない状況に陥ってしまうことがあります。
落とし穴② 途中でやめると贈与税がかかることも
「それなら、必要になったときに配偶者居住権を放棄すればいいのでは?」
そう考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ここにも注意点があります。
配偶者居住権を存続期間の途中で放棄すると、
家の所有者に対して“経済的利益を贈与した”とみなされる場合があります。
その結果、贈与税が課税される可能性が出てくるのです。
「家族間なのに税金がかかるの?」
と驚かれる方も多く、後から知ってショックを受けるポイントのひとつです。
落とし穴③ 家族関係がぎくしゃくすることも
配偶者居住権は、
- 配偶者:家に住む権利
- 子どもなど:家を所有する権利
というように、権利を分け合う制度です。
制度設計や話し合いが十分であれば問題ありませんが、現実には、
- 修繕費は誰が負担するのか
- 将来この家をどうするのか
- 空き家になった場合の管理はどうするのか
といった点で、意見が食い違うことがあります。
制度そのものは良くても、家族間の合意が不十分だとトラブルの原因になりやすいのが実情です。
落とし穴④ 「節税になる」という思い込み
配偶者居住権は、二次相続(配偶者が亡くなった後の相続)で相続税が軽くなる可能性がある制度です。
ただし、その効果は、
- 財産の内容
- 配偶者の年齢
- 家族構成
などによって大きく左右されます。
「節税になると聞いたから」
という理由だけで選択すると、思ったほど効果が出なかったり、かえって不便を感じたりすることもあります。
それでも配偶者居住権が向いている方
ここまで落とし穴をお伝えしましたが、配偶者居住権が「使えない制度」というわけでは決してありません。
たとえば、次のような方にはとても相性の良い制度です。
- 最期まで自宅で暮らしたいと考えている
- 家を売る予定がない
- 子どもとの関係が良好で話し合いができる
- 二次相続まで見据えた相続設計をしたい
このような条件がそろえば、配偶者居住権は大きな安心を与えてくれます。
まとめ:大切なのは「わが家の場合どうか」
配偶者居住権は、
安心をもたらす制度である一方、自由を制限する側面もある制度です。
「良さそうだから」
「勧められたから」
という理由だけで決めるのではなく、
- 将来の暮らし方
- お金の使い道
- 家族との関係
まで含めて、「わが家の場合どうか」を考えることが何より大切です。
相続制度は、知っているだけでは十分とは言えません。
正しく理解し、使い方を間違えないことが重要です。
この記事が、配偶者居住権について後悔しない選択をするためのヒントになれば幸いです。
具体的なケースに当てはめて検討したい場合は、専門家に相談することをおすすめします。
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