遺言による身分関係の決定について
遺言は、法律で定められた方式を守っていれば、その内容は基本的に自由に決めることができます。
ただし、遺言には相続人や相続財産に大きな影響を与える事項が含まれることがあり、特に遺族の身分関係に関わる内容については慎重に作成する必要があります。
本記事では、遺言によって影響を及ぼす可能性のある身分関係に関する事項について解説します。
遺言で身分関係に影響を与える事項
遺言によって決定できる身分関係に関する事項には、以下のようなものがあります。

認知
認知とは、結婚していない男女の間に生まれた子(非嫡出子)について、父親がその子を自分の子どもであると法的に認めることをいいます。
ふつうは役所に届け出ることで認知をしますが、もう一つの方法として「遺言」によって認知することもできます。
これは、父親が生前に認知できなかった場合に、遺言書の中で「自分の子である」と記すことで、死後に認知の効力が生じる仕組みです。
認知されると、その子は父親の法的な子どもとして扱われ、相続の権利も得ることができます。
つまり、遺言による認知は、子の権利を守る大切な手段でもあるのです。
「認知=法律上の親子関係をつくること」

未成年後見人の指定
未成年後見人とは、親が亡くなったり親権を失ったときに、代わりに子どもの生活や財産を守る人です。
民法第839条では、親があらかじめ遺言で「この人を未成年後見人にしてください」と指定できることが定められています。
特に、両親のうち一方に財産の管理権がない場合は、もう一方の親が単独で指定できます。
もし遺言などで誰も指定されていなければ、家庭裁判所が適切な人を選んで後見人にします。
未成年後見人は1人でも複数でもよく、場合によっては法人(例えば福祉団体など)を選ぶこともできます。
子どもが不利益を受けないように、法律はこのような仕組みを整えています。
未成年後見人とは、親が亡くなったり親権を失ったときに、代わりに子どもの生活や財産を守る人です。
たとえば、10歳の子どもがいて、両親とも交通事故で亡くなってしまった場合、その子には親の代わりとなる「未成年後見人」が必要です。
民法第839条では、親が生前に遺言で「子どもが未成年のうちに自分が亡くなったら、この人を後見人にしてほしい」と書いておけば、その人が未成年後見人に選ばれます。
たとえば「おばの花子さんにお願いしたい」と遺言に書いておけば、花子さんが子どもの生活や財産を見守る役割を担います。
遺言がなければ、家庭裁判所が信頼できる人を選任します。
また、1人でなく複数人にしたり、福祉法人などの団体を後見人にすることも可能です。
子どもを守るための、大切なしくみです。
未成年後見監督人の指定
未成年後見監督人とは、未成年後見人が子どもの生活や財産をきちんと管理しているかを見守る役割の人です。
たとえば、親が亡くなったあと、代わりに子どもを世話する未成年後見人が決まったとしても、その人が本当に子どものために行動しているかどうか、誰かがチェックする必要があります。
そのチェック役が「未成年後見監督人」です。
民法第848条では、遺言を残す人(遺言者)が、未成年後見人だけでなく、未成年後見監督人も遺言で指定できると定めています。
つまり、自分が亡くなった後、信頼できる人に「後見人の監督役もお願いしたい」とあらかじめ決めておけるのです。
ただし、遺言で指定がなかった場合でも心配はいりません。
そのときは家庭裁判所が代わりに適切な人を選んで、未成年後見人の監督体制を整えてくれます。
子どもの利益がきちんと守られるように、法律は二重のチェック体制を用意しているのです。
遺言作成時の留意点
上記のような身分関係に影響を与える遺言を作成する際には、以下の点に留意する必要があります。
遺言は、遺産の分け方だけでなく、身分関係にも大きな影響を与えることがあります。
たとえば「認知」を遺言で行う場合、その子どもは法的に親子関係があると認められ、相続人となります。
これにより、それまで想定されていなかった人が相続に加わることになり、他の相続人との関係が複雑になる可能性があります。
感情的な対立が起こることもあるため、慎重な判断が必要です。
また、未成年の子がいる場合には「未成年後見人」を遺言で指定することができます。
後見人はその子の生活や財産を管理する重要な役割を担いますので、信頼でき、責任感のある人物を選ぶ必要があります。
適任者が見つからない場合は、家庭裁判所に申し立てて法人を後見人として選任してもらう方法もあります。
身分関係に関わる遺言は、家族の将来に深く関わるため、専門家に相談しながら丁寧に作成することが大切です。
遺言にはいくつかの方式がありますが、特に「身分関係に影響を与える遺言」(たとえば認知や相続人の廃除など)をする際には、「公正証書遺言」をおすすめします。
自筆証書遺言や秘密証書遺言では、亡くなった後に家庭裁判所の「検認」という手続きが必要です。
この検認では、形式に不備があると遺言が無効になるおそれがあります。
特に自筆証書遺言では、日付や署名の書き忘れなどでトラブルになることが多いです。
これに対して公正証書遺言は、公証人という法律の専門家が内容を確認しながら作成するため、形式的なミスが起きにくく、遺言の内容が確実に実現されやすいです。
さらに検認手続きも不要なので、遺言者の意思を速やかに反映させることができます。
特に重要な意思を遺す場合には、公正証書遺言が最も安心・確実な方法といえるでしょう。
まとめ
遺言者は、遺言によって認知や未成年後見人・未成年後見監督人の指定を行うことができます。
これらの事項は、相続人や未成年者の生活に大きな影響を与えるため、慎重に作成する必要があります。
遺言の有効性や迅速な執行を確保するため、公正証書遺言を利用することが望ましいです。
遺言の作成にあたっては、法律の専門家に相談し、適切な内容となるよう十分な検討を行いましょう。
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