高齢者支援や終身サポートの現場で、次のような説明を耳にしたことはないでしょうか。
「任意後見人がついていれば、身元保証人の代わりになります」
一見すると、利用者に安心感を与える説明です。
しかしこの言い方は、法律上も、厚生労働省のガイドライン上も不正確であり、場合によっては重大なトラブルやコンプライアンス違反につながります。
この記事では、行政書士の立場から、
- なぜ「任意後見人が保証人になる」と言ってはいけないのか
- 厚生労働省のガイドラインとのズレ
- 専門職・事業者が注意すべき説明のポイント
を、一般の方にもわかる言葉で解説します。
なぜこの説明が問題になるのか
任意後見制度は、「判断能力が低下したときに備える制度」であり、非常に有用な仕組みです。
そのため、善意から次のように説明してしまうケースが少なくありません。
- 「後見人がいるから保証人はいりません」
- 「任意後見人が身元保証の代わりになります」
しかし結論から言うと、任意後見人は保証人にはなれません。
これは「制度上できない」だけでなく、言い切って説明してしまうこと自体がリスクになります。
保証人と任意後見人は役割がまったく違う
保証人とは「本人とは別の第三者」
病院や高齢者施設が求める保証人(身元保証人・連帯保証人)には、主に次の役割が期待されています。
- 費用未払い時の金銭的保証
- 緊急時の連絡先
- 退院・退所時の身柄引き取り
- 死亡時の遺体・遺品の引き取り
つまり保証人とは、本人とは別人格の第三者として責任を負う存在です。
任意後見人は「本人と同じ立場」
一方、任意後見人は、本人の判断能力が低下した後に、
- 本人に代わって契約を結ぶ
- 本人の財産を管理する
という役割を担います。法律上は本人の代理人であり、本人と同一の立場に立ちます。
この時点で、両者は根本的に異なる存在であることがわかります。
任意後見人が保証人になれない法的理由
① 「本人が本人を保証する」ことになる
任意後見人が保証人になるということは、法律的には
「本人が、自分自身の債務を保証する」
のと同じ意味になります。これは論理的に成立しません。
② 利益相反行為にあたる
任意後見人が保証人になると、
- 支払いを請求する立場(保証人)
- 支払いを判断・管理する立場(本人代理)
を同一人物が兼ねることになります。
これは利益相反行為として禁止されています。
③ 後見人は「自分の財産」で責任を負わない
後見人の義務は、あくまで本人の財産の中から支払いを行うことです。
後見人自身の財産で債務を保証する義務はありません。
④ 死後の責任を負えない
保証人に期待される「死亡時の引き取り・清算」ですが、
任意後見契約は本人の死亡と同時に終了します。
この点からも、保証人の代替にはなり得ません。
厚生労働省ガイドラインとのズレ
厚生労働省は、医療機関・介護施設に対し、
「身元保証人がいないことのみを理由に、入院・入所を拒否してはならない」
と明確に示しています。
また、後見人等に対して、保証人としての署名を求めないよう注意喚起も行っています。
つまり厚労省は、
- 後見人=保証人ではない
- それでも後見人がいれば実務上の不安は軽減される
という説明をしています。
「任意後見人が保証人になる」と説明してしまうと、
この公式見解と明確にズレてしまうのです。
善意の説明が招くコンプライアンスリスク
特に注意が必要なのは、次のような立場の方です。
- 高齢者等終身サポート事業者
- 福祉・介護関係事業者
- 士業・相談支援員
利用者に安心してもらおうとして、
「保証人の代わりになります」
と断定的に説明してしまうと、
- 契約不適合責任
- 説明義務違反
- 後日のクレーム・紛争
につながるおそれがあります。
正しい説明はどうすべきか
適切なのは、次のような説明です。
- 任意後見人は保証人にはなれない
- ただし、財産管理や支払いは確実に行える
- 保証人が求められる場合は別の手段を検討する
この整理をしたうえで、
- 死後事務委任契約
- 身元保証サービス
- 社会福祉協議会等の支援事業
を組み合わせて提案することが、利用者にとっても事業者にとっても安全です。
行政書士が果たせる役割
任意後見・事務委任・死後事務委任は、
説明の仕方一つで「安心」にも「トラブル」にもなる制度です。
行政書士は、
- 制度を正確に説明する
- 契約内容を適切に設計する
- 誤解を生まない書面を作成する
ことで、利用者と事業者の双方を守ることができます。
「言ってはいけない」には理由がある
- 任意後見人は保証人にはなれない
- 厚労省ガイドラインとも整合しない
- 善意の説明が法的リスクになる
制度を正しく使うことが、最大の利用者保護です。
任意後見や終身サポートの説明・契約でお悩みの方は、
ぜひ一度、行政書士にご相談ください。
「安心と言える仕組み」を、法的に正しい形で整えるお手伝いをいたします。
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