非課税とするための条件と手続き
親の遺産を慈善団体に寄付したいと考えたとき、相続税はどのように扱われるのか──本記事では国税庁の制度を基に「非課税となる具体条件」と「申告手続きの実務ポイント」を整理して解説します。
結論(要点まとめ)
遺産寄付の相続税の取り扱いは寄付の方法によって異なります。主に次の2つのケースに分かれます。
- 遺言で直接寄付(遺贈)する場合:相続人を経由せずに寄付されるため、原則として相続税はかかりません。
- 相続人が一度相続した後に寄付する場合:原則課税。ただし国税庁の「相続財産を寄附した場合の非課税制度」を満たせば非課税になります。
1. 遺言に基づく直接寄付(遺贈)のポイント
遺言で「団体へ遺贈する」旨がある場合、その財産は相続人を経由せずに寄付先へ渡ります。この場合、相続人が財産を取得したとはみなされないため、相続税は基本的に発生しません。
注意点:譲渡所得税の可能性
ただし、不動産や上場株式などを遺贈した場合、被相続人の死亡時に譲渡したとみなされるケースがあり、譲渡所得税の問題が生じる可能性があります。事前に税務の専門家に確認してください。
2. 相続人が受け取ってから寄付する場合(非課税にする4要件)
相続人が一度財産を取得してから寄付する場合でも、次の要件をすべて満たせば相続税の非課税特例が適用されます。
非課税特例の4つの要件
- 寄付財産が相続や遺贈で取得した「現物」であること
(例:相続で取得した現金・預金・不動産・株式等そのもの。取得後に売却して得た現金は不可。) - 相続税の申告期限(相続開始から10か月以内)までに寄付が完了していること
(期限を過ぎると特例は適用されません。) - 寄付先が国・地方公共団体・公益法人・認定NPOなど適格な公益団体であること
(任意団体や一般企業は対象外。寄付先の適格性は事前確認が必須。) - 寄付を証明する書類(受領証や寄付契約書等)を申告書に添付すること
(申告に必要な明細書の記載・添付がないと適用されません。)
実務上のポイント
- 寄付前に寄付先の「公益性(適格性)」を書面で確認しておくと安全です。
- 相続税申告を税理士に依頼する場合でも、寄付の証明書類は相続人が確実に保管しておきましょう。
- 株式や土地などの評価方法や時価の算定が問題となることがあります。評価額は相続税申告で重要です。
3. 国税庁の制度(No.4141)に基づく適用範囲
国税庁が示す特例では、主に次の寄付パターンが対象となります。
寄付先の主な分類
- 国・地方公共団体
- 特定の公益法人(例:公益社団法人・公益財団法人、学校法人、独立行政法人など)
- 認定特定非営利活動法人(認定NPO法人)
- 特定の公益信託(信託会社を通じて公益信託に組み入れる場合)
適用除外の例
以下に該当すると特例の適用が取り消されることがあります。
- 寄付先が寄付から2年以内に公益性を失った場合
- 寄付を通じて特定の相続人が不当に利益を受けるなど、不当な税負担の減少が認められる場合
4. 手続きと必要書類(チェックリスト)
非課税特例の適用を受けるために必要な手続きと提出書類は次のとおりです。
必須書類(主なもの)
- 相続税申告書(特例適用の旨を記載)
- 寄附した財産の明細書(相続税申告書第14表)
- 寄付先からの受領証または寄付契約書
- 寄付先が公益法人等であることを証明する書類(必要に応じて所轄庁の証明)
手続きの流れ(簡易)
- 寄付先の適格性を事前に確認する(書面で保存)
- 寄付(相続税申告期限内に完了)
- 必要書類を揃えて相続税申告書に添付して提出
- 税務署の確認を経て非課税が適用される
5. よくある質問(FAQ)
Q1:遺言で寄付するとき、相続人の手続きは必要ですか?
A:遺言で直接寄付(遺贈)される場合、寄付先へ財産が移転するため、相続人がその財産を受け取ったとはみなされません。ただし相続放棄や遺言の執行など、手続き上の対応が必要になる場合があります。
Q2:寄付先の「公益性」はどこで確認できますか?
A:寄付先の法人格や認定状況は、所轄庁の公開情報や寄付先からの公式な証明書で確認します。認定NPOかどうか、公益法人の認定有無などを文書で取得してください。
Q3:相続開始後に売却して得た現金を寄付したらダメですか?
A:原則として、相続で取得した財産を現物のまま寄付することが要件です。相続財産を売却して得た現金は非課税特例の対象にならないため注意が必要です。
まとめとご案内
遺産寄付における相続税の取り扱いは、寄付の方法・寄付先・申告期限・証明書類の有無によって結果が大きく異なります。正確に非課税を適用するためには、寄付先の適格性の確認・申告期限の厳守・必要書類の整備が不可欠です。実務上の判断や税務評価に関する個別のご相談は、税理士や行政書士・弁護士などの専門家へご相談ください。
(本稿は国税庁資料に基づく一般的な解説であり、事例により取扱いが異なる場合があります。)
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